裏階段 アキラ編 86 - 90
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「…?」
アキラはそのままオレを跨ぎ、オレの膝の上に間近に向かい合うように腰掛け
オレの首に手を回してきた。
そしてオレの唇に自分の唇を重ね合わせてきた。
重ねては離し、強く何度も唇を押し付けてきた。
「…待ちなさい、アキラくん、」
さらに顔を近付けようとするアキラの肩を掴んで止めた。
だがアキラは両手でオレの眼鏡を外そうとした。
そのアキラの手首を掴んだ。
「落ち着くんだ、アキラくん。」
眼鏡を床に落とされないよう、アキラの手から眼鏡を取りかえして畳み、
ソファーの隅に放った。
体格に合わないバスローブの合わせた前がはだけてアキラの鎖骨から薄い胸板が
見える。
頭から被っていたバスタオルが肩にずれ落ちていた。
そのバスタオルでアキラの濡れた髪を包んでゴシゴシこすってやった。
「これからは出来る限り碁会所に顔を出すよ。」
髪を拭きながらそう伝え、アキラの額に軽くキスをした。
「…緒方さん」
何かを決意したような目でアキラがオレを見つめた。
「…ボク、プロ試験を受けます。…プロになります…。」
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「…そうか、名人も喜ぶだろう。」
「プロになって、緒方さん、あなたを追います…。」
空ろがかっていたアキラの視線が今はもうしっかりとこちらを見据えていた。
「それなら…捕まらないように逃げないとな。」
そう言いながら、アキラの体を膝の上からどかそうとした。
だがアキラは再びオレの首に腕を回して強く抱き着いてきた。
言葉はなかったが、アキラがここに来た理由は明白だった。
自分の意志でそう決めてやって来た。それが彼にとって重要なのだろう。
「…後悔しないか。」
耳元で囁くと、アキラはオレの頬に顔を添えたまま頷いた。
「…もうボクには…緒方さんしかいないんです…。」
消え入りそうな、悲鳴のようなアキラの言葉だった。
そんな事はないだろう、まだまだいろんな出会いが君にはあるはずだ、と
綺麗な言葉を与えてやれる程オレは人間的に完成してはいなかった。
アキラの肩を掴んでいた手をアキラの背に滑らせると、そのままアキラの体を
きつく抱きしめた。
アキラが大きく溜め息を漏すのが聞こえた。
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アキラの背から下へ手を動かし、それぞれのアキラの両膝へバスローブの上から
撫でて行く。
そして今度はバスローブの裾から手を入れて、直接アキラの肌に触れた。
アキラはオレの首にしがみついたまま身を硬くした。
彼の鼓動と脈が速まり、呼気が熱く乱れるのがわかる。
手を外へ引き出し、バスローブの紐をほどく。
そしてまた手を入れて背中にまわし直接アキラの体を抱き締める。
その瞬間、今自分の手の中にいる者がどんなに脆く華奢な、大切に扱うべき
対象か思い知る。
いくら背丈が大きくなったとはいえ、まだ成長期にほんの差し掛かったばかりの
幼さが残る肉体だった。そういう行為に耐えられるはずがない。
その事を自分に説得するようにアキラの体の各部分に手を這わす。
首の後ろから肩へ、腕へ、そして背中に戻り、脇を辿って膝の上へと動かす。
それを繰り返すだけでもアキラが時折体を震わせ、躊躇うような息を漏す。
こちらの心音も高まってきていた。
ここで踏みとどまれなければ、自分を制御する自信はなかった。
葛藤が渦巻く。
先生が知ったら、少なくとも先生の世界においてオレは抹殺されるだろう。
「…緒方さん…ボクを助けて…」
手の動きを止めたオレの最後の留め金が、アキラのその言葉で外れた。
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膝の上で止まっていた手は、そのままアキラの体に戻る。
今度は背中ではなくその付け根へと向かう。
アキラの腕に力が込められる。
両側から手の平で、アキラの臀部を包んだ。
背中や膝とは違う皮膚の感触がそこにはあった。
アキラの肌はどこも滑らかで肌理が細かかった。だがそこはそれ以上に
しっとりと手の平に吸い付くような柔らかな触感だった。
オレの膝に跨がっていることでその谷間は無防備に大きく開いている。
指先がその近くを掠めた。
「あ…」
ビクリとアキラの体が震えた。
「…嫌か?」
そう尋ねるとアキラは顔をこちらの肩に預けたまま首を横に振る。
それでも相当アキラが緊張しているのは感じた。
片手をその箇所から、ゆっくりと膝へ戻して今度はその内側からアキラの体に
辿る。アキラの両足の間に滑り込ませる。
「…んっ…!!」
苦しい程にアキラの両腕がこちらの首を締め付けて来る。
アキラのその部分は想像していたよりすでに熱く大きく昂っていた。
本人以外の者の手によって触れられ捉えられて、激しく脈打っていた。
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シャワーでは消えないアキラの匂いを抱いていた。
『…ボクを助けて…!』
あの家で、あの夜、同じ言葉を吐き出し、オレは先生に縋った。
先生はひどく躊躇っていた。それでもオレは必死だった。
あの時受け容れてもらえなかったら精神が崩壊しそうだった。
アキラが何に追われ、何に怯えていたのかは分からない。
才能や将来に対する過度の期待やプレッシャー、考えつくのはそんなところだ。
だがそれだけの事でここまで誰かに救いを求めるだろうか。
アキラが本当は何に怯えていたのか、その時はわからなかった。
昂ったアキラのモノの根元を軽く握り、先端に向かって手を動かす。
「んんー…」
アキラがくぐもった呻き声を漏す。
すでに先端から蜜が溢れていて指を濡らした。
おそらくシャワーを浴びた直後から、いや、それ以前から、
アキラは精神的にも肉体的にも激しい興奮状態にあったようだった。
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