平安幻想異聞録-異聞- 86 - 90
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座間が力強く腰を振りヒカルの「鞘」に収めたそれで中を責めだす。
「うっう゛……く……」
無理矢理ねじ開けられた体が、痛みに苦悶の声をあげる。
それは確かに、始めには純粋な苦痛のみの理由で発せられていたヒカルの喘ぎ声だった。
だが女にも男にも百戦錬磨を豪語する座間は勝手知ったるもの。
男をよがらせることなど簡単だといわんばかりに、的確に、ヒカルの一番弱い場所、
薄い壁の向こうに前立腺が通る場所のあたりを責め上げてくる。
その手慣れた座間の手管に、人の体の悲しさか、自分の声にも徐々に甘いものが
含まれてくるのがヒカル自身にも自覚できて、必死で歯を食いしばった。
「おお、これじゃ、この味を手に入れたかったのよ」
声を座間に聞かすまいと体に力を入れたヒカルは、無意識に下に飲み込んだ
座間のモノをきつく締めつけていた。
「今まで幾人もの稚児のここを喰ろうて来たが、ここまで締まるものは
なかなかなかったわい」
「育ちの卑しさも時には、思わぬ所で役に立つものですなぁ」
「おうよ。幼い頃からその見目のよさを買われ、それ用に育てられる分、
稚児の体は女子のように柔らかく、性根も素直だが…」
ヒカルの腰を掴んで深く犯しながら、座間が息を荒げる。
「物足りん。甘やかされて育てられた体は締まり具合も中途半端じゃ。
だがその点、検非違使となれば、毎日毎朝、剣の鍛練もかかさんのじゃろう。ん?」
問い詰めるように強くこすり上げられて、ヒカルが、思わず高い喘ぎをもらした。
「鍛えられた体はここの締めつけ具合も稚児など問題にならぬ強さよ。体も
柔らかいばかりでなく、なんともしなやかで気持ちよいしのう」
そう言って座間は、広げた手のひらで味わうように、少年らしい伸びやかな
筋肉の付きかたをしたヒカルの腰と腿をなで回す。
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「ここも、…ここもよい」
「…ぅ………」
ヒカルが猫がノビをする姿勢のままクッと顎をそらせた。
「ここものう…」
座間が揺さぶられ続けるヒカルの背筋の中心にそって手を這わせ、
それが無防備に晒されたうなじにたどりついたのだ。
「まこと、よい味よ」
「よい品を手に入れられましたなぁ」
「うむ、手間暇かけたかいがあったわい」
座間はわざと、じっくりゆっくりと陽根を抜き差ししはじめた。ヒカルに、
誰が支配者なのか思い知らせるために。
「は……ぁ……っっ」
ヒカルは必死に息を殺す。
このまま流されてしまいたくない。
「ほう、この愛らしい検非違使殿は恥ずかしくて儂達によがる声を
聞かれたくないと見える。それもよいよい。鳴かぬ鳥を鳴かすのも、
男の甲斐性、閨の楽しみよ」
座間の抜き差しの速度が少しずつ速くなる。その熱い「刀」でヒカルの
弱いところを確実に切りつけてくる 。
「はんっ…んふッん……んぅ!……ふぁっ…」
押さえきれない嬌声が、ヒカルの腹の奥から込み上げて、外へ漏れ始める。
いやだ。このまますべて座間達の思い通りになるのは。
せめて、この目の前にに布団でも着物でもあれば、それを噛みしめて、少しは
声を抑える事ができるのに――。
その時、ヒカルが薄目をあけて、朦朧とした視界に見たものは、汗をしたたらせて
床板にすがりつこうとあがく、自分の腕だけだった。だから。
ヒカルは思いきり、自分の左の手首に噛みついた。
――ひとつぐらい、意地でも座間達の思い通りにならないことがあったって
いいじゃないか、畜生。
「ほう、この検非違使殿は、そこまでわし達にいい声を聞かせとうないか。
面白い、ますます面白いぞ!それでこそ、鳴かせ甲斐があるというものよ!」
座間はヒカルの鞘に、自分のものをがっちりと奥まで食ませると、急激に大きく
輪をえがくように掻き回した。右へ左へ。奥かと思うと、入り口で。
「んーーっ!っっっんっ!んんン!んんン!んん!!」
中の壁全体を豪根の棹をつかっていっぺんに刺激されて、ヒカルが悲鳴をあげた。
膨れ上がった座間のそれの血管さえコリコリと突起物のように、
内壁を様々な角度から抉る責め具の役割をしていた。
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座間は、ヒカルの片方の足を大きく持ち上げると、そのまま自分の反対側の
肩に乗せ、いわゆる松葉くずしの格好になるように、ヒカルの足の間に、
自分の体ごと腰を深く入れてきた。
足を大きく開かされたことにより、秘門の入り口が引っ張られて開き、
より奥まで簡単に座間のモノを迎え入れてしまう。
より強くなった快感に、ヒカルは必死で背を向ける。流されるまいと、
右手の爪が床板をひっかく。左手首に噛みついたままの口にも力が入った。
「よいわ、よいわ。やはり、たいした味よ!」
「んんっん……んっっ!」
ヒカルは涙を流しながらそれに耐えようとする。
座間の腰の動きは徐々に大きく早く、躍動感にあふれたものになって来た。
ヒカルの腰が、その座間の律動に合わせて、砕けんばかりにガクガクと揺さぶられる。
動きに合わせて、ヒカルの金茶の前髪がバサバサ乱れて揺れた。
自分の手首に噛みついたままのヒカルの口の端から漏れる苦悶の声とともに、
鮮血がこぼれて、床を彩った。その血の上に、ヒカルの肌がこすれて、
その赤い色を薄く広げて床板に塗りこめる。
「んふっ、んっっ、んっ、んん〜〜っっ」
座間の肩の上に持ち上げられた足が、律動に合わせて、奥を付かれる度に跳ね上る。
「うっ、うっ、んぐんーーーーーっっ!」
ヒカルが口の中で最後の悲鳴をあげた。
悲鳴は血の味がした。
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次の朝、ヒカルはきちんと整えられた寝所で目をさました。
最初は自分がどこにいるのかわからなかったが、起き上がろうとして、
自分の左手首に、手当てをした後の布が巻かれているのを見、すべてを思い出す。
そうだ。ここは座間の屋敷だ。
しばらくして、能面のように整ってはいるが、白くてのっぺりとした顔の侍女らしき女が、
朝餉をもってやってきた。
「座間様からの御伝言です。この部屋はすでに近衛様のもの。
好きにお使いになるようにと。それから、本日からは座間様の警護役として
内裏への出仕にもお供なさるようにとの御命令です」
言い終わると女は、つつとヒカルの側ににじりより、ヒカルの左手を取った。
手早い動作でヒカルの手にまかれた布を取り換える。
布は何か薬湯がしみ込ませてあるのか少し黄肌に染まっている。
女は丁寧に扱ってくれたが、それでも古い布を取ったとき、
かさぶたがはがれて、結局新しく巻かれた布にも、赤く血が滲んでしまった。
それが終わると女は後ろから何かを取り出した。
太刀だった。
「これで、警護役としての剣の鍛練もかかされぬようにと」
ヒカルは太刀を鞘から抜いてみた。
太刀は刃がわざと潰されていた。
しばらくそれを眺めるうち、女はいつの間にか立ち去っていた。
ヒカルは太刀を鞘におさめ、そっと横に置く。本当は部屋の隅に投げて
しまいたかったけれど。
常なら明け方のこの時間、ヒカルは庭で太刀を持つのが日課だったが、
昨日の夜、座間達の会話を、揺すられる背中で聞き覚えていたヒカルは、
とても剣を振る気になどなれなかった。
その日、ヒカルは初めて、座間の供として内裏に出仕した。
そこで一番会いたくて、一番会いたくなかった人間にあった。
佐為。
裏切られたと思うだろうか? 何か事情があったのだと察してくれるだろうか?
どちらにしろ、傷付いた瞳をしているのは間違いない。
ヒカルはそれを見たくなくて顔を伏せた。
座間達とともに、下をみたまま足早に歩き出す。
かの人の横をすり抜る。
ヒカルは、振り返って駆け寄りたい衝動を、抱きしめてなぐさめてやりたい衝動を、
懸命に心のうちに押さえ込んだ。
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ヒカルが座間と供に出仕したという事実は、ヒカル本人が思っている以上に、
宮中全体に波紋を広げていた。
座間派をおさえ、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの藤原行洋一派の権勢。
その中でも、件の妖怪退治での立役者となった藤原佐為。
佐為が未婚者ということもあって、彼が内裏に出仕する度に、まだ嫁ぎ先の
決まらない女房達、あるいは、年ごろの娘を持つ権力欲あふれる貴族達の、
熱い視線を浴びることになっていた。
そして、その佐為の傍らに常にある、金茶の前髪の少年検非違使の姿。
検非違使ごとき身分の者が内裏に出入りする物珍しさもさることながら、
その少年らしい快活な所作と印象的な髪の色は、佐為の姿とともに否が応でも
人々の目に入り――いつのまにやら佐為とヒカルは対の者として、二人一緒にいるのが
当然というふうに、本人達さえ知らぬ間に思われるようになっていたのだ。
その近衛ヒカルが、今日はどういうわけか、座間長房とともに内裏に出仕してきた。
対する藤原佐為は、まったく別の青年検非違使を供につれていた。
いったい何があったというのか。
その光景は、内裏の人々の興味をおおいにそそった。
ヒカルと佐為の仲の良さをしっている女房達が、扇の影で口と耳を寄せ合い、
「どちらがどちらを振ったのか」などという、高貴な身分の女性としては
少々下品な噂話に興じている程度ならまだよかった。
あわよくば、佐為の君に取り入って、自らの立身出世をと睨んでいた公達の中には、
ヒカルをただの佐為の警護役としてではなく、政治的な意味での懐刀的な存在なのでは
ないかと深読みしている者もいて、その近衛ヒカルが佐為を裏切った――これは
ヒカル個人が座間派によったということ以上に、藤原派である佐為が、
彼を通して座間派に内通しているのではないかという推論を呼び起こし、
さらにその憶測が独り歩きして、ついには佐為が藤原行洋を裏切って、
座間派に走ったのではないか。
そしてその証として懐刀であるヒカルの身柄を座間に預けたのではないかという
話にまでふくらんだ。
そんな話に尾鰭がついて、その日の夕方には内裏中、いや大内裏にまで噂は広まり、
夕方遅くに、佐為はその申し開きのために藤原行洋に呼びだされるはめになったほどだ。
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