裏階段 アキラ編 87 - 88


(87)
「…そうか、名人も喜ぶだろう。」
「プロになって、緒方さん、あなたを追います…。」
空ろがかっていたアキラの視線が今はもうしっかりとこちらを見据えていた。
「それなら…捕まらないように逃げないとな。」
そう言いながら、アキラの体を膝の上からどかそうとした。
だがアキラは再びオレの首に腕を回して強く抱き着いてきた。
言葉はなかったが、アキラがここに来た理由は明白だった。
自分の意志でそう決めてやって来た。それが彼にとって重要なのだろう。
「…後悔しないか。」
耳元で囁くと、アキラはオレの頬に顔を添えたまま頷いた。
「…もうボクには…緒方さんしかいないんです…。」
消え入りそうな、悲鳴のようなアキラの言葉だった。

そんな事はないだろう、まだまだいろんな出会いが君にはあるはずだ、と
綺麗な言葉を与えてやれる程オレは人間的に完成してはいなかった。
アキラの肩を掴んでいた手をアキラの背に滑らせると、そのままアキラの体を
きつく抱きしめた。
アキラが大きく溜め息を漏すのが聞こえた。


(88)
アキラの背から下へ手を動かし、それぞれのアキラの両膝へバスローブの上から
撫でて行く。
そして今度はバスローブの裾から手を入れて、直接アキラの肌に触れた。
アキラはオレの首にしがみついたまま身を硬くした。
彼の鼓動と脈が速まり、呼気が熱く乱れるのがわかる。
手を外へ引き出し、バスローブの紐をほどく。
そしてまた手を入れて背中にまわし直接アキラの体を抱き締める。
その瞬間、今自分の手の中にいる者がどんなに脆く華奢な、大切に扱うべき
対象か思い知る。
いくら背丈が大きくなったとはいえ、まだ成長期にほんの差し掛かったばかりの
幼さが残る肉体だった。そういう行為に耐えられるはずがない。
その事を自分に説得するようにアキラの体の各部分に手を這わす。
首の後ろから肩へ、腕へ、そして背中に戻り、脇を辿って膝の上へと動かす。
それを繰り返すだけでもアキラが時折体を震わせ、躊躇うような息を漏す。
こちらの心音も高まってきていた。
ここで踏みとどまれなければ、自分を制御する自信はなかった。
葛藤が渦巻く。
先生が知ったら、少なくとも先生の世界においてオレは抹殺されるだろう。
「…緒方さん…ボクを助けて…」
手の動きを止めたオレの最後の留め金が、アキラのその言葉で外れた。



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