平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 87 - 88


(87)
どこそこの家の誰それを、せめてその役どころの補佐として登用してほしいだとか。
なんとかこの機会に自分の娘が、どこぞの殿方の目にとまるように、はからって
欲しいだとか。
伊角の懐に届けられる金品は枚挙にいとまがない。
それをそのまま突き返すのは角が立つので、同等の価値のある楽器やら、調度品やら
に変えて、送り主の元に届けさせる。
そんな雑事に「伊角派」の面々――和谷や門脇、岸本といった面々は奔走していた。
中には、届けた品物を、伊角が籠絡できないからと、その和谷や岸本に渡そうと
するやからもいるらしい。
「まったく、これではまともに、今年の収穫の話もできやしない」
ぼやく伊角を、ヒカルは笑って眺める。
内裏の一角にしつらえられた、伊角のための控えの間にふたりは座していた。
さすがに十一月も半ばをすぎると空気も身をきるばかりに冷たくなってくるから、
御簾は降ろされたままだ。
その降ろされた御簾の下から、ツッとひとつの文が差し入れられた。
部屋の中のふたりは、その様子を黙って眺めて顔を見合わせ、一緒に溜め息を
つき、ヒカルがかったるそうに腰をあげて、その文を取りに行く。
「次の五節の舞において、舞姫付きの童女に、ぜひ我が二の姫を召し上げて
 いただきたく……」
その場に立ったまま、ヒカルが読み上げてみせたその文面に、伊角が首を
振った。
「もう五節の舞の御役目はみんな決まってるっていうのに…」
「伊角さんに言えば、なんとかしてもらえると思ってるのかもね」
ヒカルは言いながら少し御簾を高く上げた。


(88)
そこから眺める中庭は、せんだってまでの秋の美しい風情はない。萩もススキ
も、乾いた朽ち葉色になって力なく首を垂れている。背の低い紅葉も植わって
いたが、つい先ごろまで僅かではあったが紅の色を残していたその枝に、今は
ただ一枚の葉も残っていない。
「全部、落ちちゃったなぁ」
「近衛」
「なに?」
「お前、少し変わったな」
「……そうかな?」
「なんか、大人っぽくなった」
今まで顔立ちそのものは成長しても、その表情の中に変わらずにあった子供っ
ぽさが、急に消えうせた。
同時に、2.3日前まで伊角の胸を騒がしていた、あのどうにもむしゃぶり付き
たくなるような濃い色気も失くなって、変わりに残ったのは、朝に降りる霜の
白さにも似た、不思議な美しさだった。
「今までがガキっぽすぎたんだとか、和谷には言われそう」
ヒカルは御簾をそっと降ろす。
確かに自分は少し変わったのかもしれない。
佐為の死を聞かされて、信じられなくて悲しくて、それを受け入れようと足掻い
て、結局無理だと悟った。
忘れようとして、そんなことは出来ないのだと、反対に嫌というほど思い知った。
あいつはいなくなったのに、やはり自分が欲しいのは佐為だけだと、体に知ら
されて、諦めが付いた。
藤原佐為が好きだ。
自分はきっと、この想いと彼の思い出を、ずっと死ぬまで抱えて生きていくの
だろう。
不思議なことに、そう考えて初めて、ヒカルは佐為の死を正面から受け止め
られた気がする。
こういう諦めにも似たものの悟り方が、『大人になった』という言い方を
されるのなら、きっとそうなのだろう。



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