断点 9 - 10
(9)
後ろで塔矢が立ち上がる気配がした。
振り返ろうとしたけど、それさえ億劫で、結局動けなかった。
どれくらい、そこでそうしていたのかよくわからない。
長い時間が経ったような気がした。
剥き出しにされた下半身に寒さを感じてオレは小さく震えた。
顔をあげてみると、塔矢はいつの間にか服もちゃんとしていて、足を組んで椅子に座ってオレを見
下ろしていた。
「とう…」
思わず名を呼びそうになってしまうと、あいつはオレを見て薄く笑った。オレを馬鹿にしたように、
冷たく。視線の冷ややかさに思わず震え上がりそうだった。
「いつまでそんな格好でいるつもりなんだ。いい加減、起きろよ。」
冷たい声が浴びせ掛けられて、オレは両手をついてのろのろと起き上がろうとした。
「あっ…」
つっと、後ろから足を伝わり落ちるものを感じて、オレは思わず声をあげてしまった。
あいつはクスッと笑って、丁度あいつの足元にあったティッシュの箱を軽く蹴ってオレのほうへよこし
た。ティッシュで拭ったものを、見なけりゃいいのに見てしまうと、それは白い精液に血の混じったも
ので、見ただけでオレは貧血を起こしそうになった。
「ああ、」
相変わらず冷たい声が降ってくる。
「下痢したくなかったら、中に残ってるのはそのままにしておかない方がいいよ。」
(10)
!
思わずオレは声も出せずに塔矢を睨み付けた。
おまえが!おまえが、残していったんだろうが!それを!!
「そんな風に拭いただけじゃダメだよ。ちゃんと中のを掻き出さないと。」
あいつはそんなの全然気にする様子も見せずに、平然とオレを見下ろしたまま、更に言った。
「やり方がわからない?別にどうって事ないよ。指突っ込んで広げて掻き出せばいいだけだ。
ティッシュくらいならいくら使っても構わないよ。」
淡々と、何でもない事のように言う塔矢が恐ろしい。
「自分でそんな事できないとでも?でもボクは手助けなんかするつもりはない。つらいのはキミ
の身体だ。好きにすればいい。さっさとしたほうがいいとは思うけどね。
どっちにしてもいつまでもそこで愚図愚図してないで、始末するなりなんなりして、服を着たら
帰ってくれないか。」
冷たい声で残酷な事を言いながら、それなのにオレをずっと見ている。
せめて見ないでいて欲しいのに、ずっと、オレから目を離さない。
仕方なく、オレは震えながら、恐る恐る自分で指を入れた。多分、無理矢理挿れられて引き裂
かれたそこは、触るだけでも痛い。オレは痛みをこらえながら指を進めていくと、何かが(って
あいつがオレの中に出していったものだ)オレの指を伝う。気持ちが悪くて思わずうめき声が出
た。痛くて、気持ち悪くて、オレは泣きそうになりながら、それを掻き出した。でも泣きそうだった
のはそれだけじゃない。
悔しくて、自分が情けなくて、そして、恥ずかしくて。
なんでオレは塔矢の目の前でこんな事をしてるんだ?
(後で思い返して、せめてトイレにでもいってすればよかったんじゃないかと思ったけど、その時
は何でか、そんな事、思いつかなかった。)
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