カルピス・パーティー 9 - 10


(9)
そこでヒカルは愛撫を止め、視線だけをアキラに注いだ。
ややあって、続きが与えられないことに気づいたアキラが漸く半分ほど目を開いた。
「・・・・・・?・・・・・・」
「気持ちよかったか?」
ヒカルはちゅぱっとキスするようにアキラの中指の先を吸ってみせ、にこっと笑った。
アキラはまだ快楽の余韻から抜け切らないような表情でぼんやりと手首をヒカルに預けて
いたが、見る間に目に意識の光が戻り、それと同時に端正な顔がまた朝焼けの空のように
赤く染まった。
「・・・・・・っ!」
ブンとアキラが手を振りほどく。
「わっ。危ないなぁ、また壜倒しちゃうぜ?」
「知るかっ!洗えば済むことなのに、何故キミにあんなことをされなきゃならない?」
「え?いや、ホラさあ、水で流すのもったいないと思って。結構量あったし、流す前に
オレに舐められたほうがカルピスにとっても幸せだろ?他に理由なんてないぜ?」

咄嗟に思いついただけの出まかせだった。
が、アキラは小さく「・・・そうなのか」と呟いて、ショックを受けたように黙り込み
俯いてしまった。

そんなアキラの反応を、恥ずかしがっているのだろうとヒカルは思った。
ヒカルは他意なく手を舐めただけなのに、自分一人で先走って喘いでしまったと思うと
恥ずかしいのだろう。
(でも、カルピス舐めるだけならあんなしつこく舐めるかよ。・・・ちょっとはオレを疑えよな)
心の中でペロッと舌を出しながら、ヒカルはアキラの顎に手をやり、上向かせた。


(10)
(あれ?塔矢、ちょっと顔青い?)
先ほどまで朝焼けの空のように綺麗な赤い色に染まっていた頬の、血の気が失せていた。
いつもなら凶暴なくらい真っ直ぐにヒカルを捉え追いかけてくる黒い瞳も、戸惑った
ようにつと横に逸らされてしまう。
(・・・そんなに気にしてんのかなぁ)
悪いと思うよりも、あの塔矢アキラが自分の言葉にはこんなに素直に反応するのだと
思うと面白くて、いとおしかった。

上向かせたアキラの無防備な唇に、ヒカルはそっとキスをした。
もう一度自分のために赤く染まるアキラを見たいと思った。
だがアキラは相変わらず青ざめた顔のままで、自分の唇に触れているヒカルの顔を
静かに押しのけた。

「塔矢?」
「すまない、進藤。ボクは・・・今日は、もう帰るよ」
今度は戸惑ったのはヒカルのほうだった。冗談じゃない。
「ま、待てよ塔矢。久しぶりに来たんだからゆっくりしてったらいいだろ。・・・座れよ。
そしたら、そしたらさあ、・・・もっと気持ちよくしてやるぜ?」
アキラの頬がさあっと赤く染まった。
ああ、その色だ、塔矢。
ヒカルは懸命に言葉を続けた。
「それにオレだって、オマエがあんなエロい顔するからなんかムラムラしてきちゃって、
このまんまじゃ収まらねェよ。・・・責任取ってけよな!」

部屋にはもう、カルピスの甘酸っぱい匂いが充満している。



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