白と黒の宴4 9 - 10


(9)
その秀策のイメージを色濃く纏ったsaiの存在。
アキラの脳裏に自分を最初に破った時のヒカルの存在が浮かぶ。
進藤とsai。回転ドアの表と裏のよう何度も入れ替わり重なり合う2人の影。

「ああ、そう言えば進藤って秀策の署名鑑定士だったんだ」
ひょいと思い出したような倉田のその言葉に思わず「はア!?」と社が顎を落とす。
倉田から以前に秀策の署名の虚偽をヒカルが見抜いたという話を聞かされて、ますます社は
困惑したような表情になった。アキラにも倉田のその話は興味深いものだった。

「なんやそれ…ただの秀策ファンやないっつーこと?だったらまあ、悪口言われて頭に来るのは
わかるけど…。オレだってもし吉川八段の事を『敵じゃない』って馬鹿にされたら…」
と想像するような顔をし、「………あまり腹は立たんかも…」とボソリと呟いている。

ヒカルの怒りはそれ以上の、確かにまるで自分自身を、自分の半身を貶められたような怒り、
自分の大事な存在を傷つけられた怒りのようなのだ。
saiが非常に秀策に傾倒していた碁打ちだということは素直に考えられる。
それらが全て以前ヒカルとsaiの関係においてアキラが想定したあるイメージを肯定していく。
それは何度も進藤に否定された考えだ。
でなければ別のもう一つの結論に辿り着く。
だがそれは、アキラが最も恐れる、辿り着きたくない結論だった。


(10)

「オレを大将にして!倉田さんっ!」
アキラが再びその疑念を抱き始めた事にもヒカルは気付かず倉田に食い下がる。
「大将は塔矢、進藤はまだ塔矢より下、お前はふ・く・しょ・う!」
ヒカルを落ち着かせるどころかさらに焚き付けるような倉田のその言い種に社はヒヤリとした。
出せる言葉が見つけられずヒカルは口を開けたまま倉田を睨み返している。今にも
倉田に掴み掛かりそうだ。そうなったら止めなければと社は身構えた。

「でもー、明日の中国戦でいいとこ見せたら考えてやらなくもないぜ」
倉田のその言葉に怒りで見開かれていたヒカルの瞳がさらに丸く剥かれる。
内容を理解するのに一瞬時間がかかったようだった。
「は、はいっ!!」
興奮気味に半分裏返った声でヒカルは返事する。
アキラは小さく溜め息をついた。ヒカルをやる気にさせるためにいかにも
倉田の考えそうな作戦だ。
「だけど中国戦の出来不出来は3人とも見るからな。さア、部屋に戻ってさっさと休め。」
「ホンマやこんな騒ぎで疲れとうないわ。帰ります。」
さすがに社もヒカルの単純さに一気に気が抜け、呆れ果ててうんざりしたような顔で出口に向かう。
「…失礼します。」
丁寧に頭を下げてアキラも続いた。
そのアキラと社の間をリスのように素早くすり抜けたヒカルは社が呼び止めるのも聞かず
さっさとまっ先に自分の部屋に入るとドアを閉めてしまった。



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