Trick or Treat! 9 - 10


(9)
「あなたがもしおかしを持っていなかったら、台所に取りに行ってもいいです」
なかなか寛大なお化けである。
「むぅぅ・・・」
苦渋の色を滲ませると、行洋は袖の中から一つの包みを取り出し、屈み込んで
お化けに差し出した。白い雲をプリントした鮮やかな空色の包装紙と、
半熟卵の黄身のような濃い黄色のリボンでラッピングされた四角い包みだ。
「仕方がない。キミにはこれをあげよう」
「・・・この中身はおかしですか?」
「疑うなら、開けてみたまえ」
大鎌を畳の上に置こうとしてふらつくお化けに、近くにいた棋士が
「あ、持ってましょうか」と舎弟のように申し出た。

お化けは、魅せられたようにその綺麗な包みを受け取った。
「・・・・・・」
ガサガサと包みが開けられる。
部屋にいた者たちが、思わず集まってお化けの手元を覗き込む。
「――わぁ、・・・」
小さな声が上がると同時に、取り囲んでいる者たちからもほー、と感心の吐息が洩れた。
その様子に、一人固まって動けずにいた緒方も思わず立ち上がり、人垣の中を覗き込んだ。

包みの中には白い箱があり、箱の中には飴色の雲のようなものが
ふんわりと詰められている。
そしてその中に白い「卵の殻」と、そこから生まれたらしい丸っこい可憐な
「小鳥」が一羽、ちんまりと収まっていた。


(10)
「・・・これ、ひよこちゃん?」
しばらく声も出せずにいたお化けが、怖い声を忘れて言った。
白い卵の殻はどうやら砂糖菓子のようで、たまご色の小鳥の羽には、
よく見るとうっすらと狐色の焼き色がついている。
卵から生まれたばかりの小鳥はこんなに可愛らしい姿をしていないということは
さておいて――よく出来ていた。
「生まれたてらしい」
行洋は大事な秘密でも明かすように手を立てて口に当て、声を潜めて言った。
「えー・・・それじゃ、食べちゃうの可哀相だねぇ。どうしよう・・・」
「この子をどうするかは、キミのお母さんと相談してゆっくり決めるといい。
賞味期限は3日間だ」
生き物という前提で話しているのか食べ物という前提で話しているのか分からない。

元通りに包み直してもらったひよこ菓子の箱を宝物のように胸に抱き締めて、
お化けは行洋に「ありがとう・・・」とお辞儀した。
それから大鎌を脇に挟ませてもらい、名前入りのシーツをズルズルと引きずりながら
お化けの国に帰っていった。

「・・・先生・・・あれを買うために、出てらしたんですね・・・」
一番年嵩の棋士がボソッと言った。
一人で抜け駆けしてポイントを稼いだな・・・と部屋にいる誰もが思っていた。
「うむ、キミたちにはすまないことをした。遅れてしまった分、今日はいつもより
みっちり勉強しよう。・・・キミたちもアキラの我儘に付き合ってくれたそうだね。礼を言う」
「あ、いえ、そんな・・・」
師匠に深々と頭を下げられては、みな恐縮してしまう。
「では――研究会を始めよう」
行洋の一声で、門下生たちはバラバラと碁盤の周りに集まり出した。
響き始める硬質な碁石の音を聞きながら、
緒方は一人先刻の小事件を思い出して貧血を起こしそうになっていた。



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