闇の傀儡師 9 - 10
(9)
人形の服そうや、直接自宅や棋院会館に手紙を置きに来た事から、この相手は常に
自分の傍にいて自分を見ている可能性があると思ったからだ。
今アキラとこうしてここにいる瞬間も―。
ヒカルは思わず息を潜め、神経を張り巡らせてそおっと公園を見回した。
「進藤?」
アキラもすぐにハッとなり、同様に周囲に怪しげな人影がないか探した。
遠くの方で犬の散歩で横切る人以外はとくに気配はしなかった。
それでも何か、何かがヒカルの皮膚に纏わりついて離れない、そんな息苦しさがあった。
「しばらくは、夜遅くとか一人で出歩かない方がいいかも…。」
神妙なアキラの言葉と表情にヒカルが動揺した顔を見せる。
「うええ…っ」
「戸締まりとか、気をつけた方が良い。2階だからって安心しないで、カーテンも
ちゃんと閉めて着替えるんだよ。隙を作っちゃダメなんだ。」
「う、うん…」
アキラの忠告にヒカルは泣きそうな顔で頷く。一度あかりが学校帰りに知らない男に後を
つけられて怖くて泣きそうになったという話を聞いた事があり、女の子って大変だなと
思ったが正直どこか他人事でピンと来なかった。初めてあかりが感じた「怖さ」を実感した。
そんなヒカルを元気付けようとするようにアキラがヒカルの手を強く握りしめた。
「大丈夫だよ。よほどの事がない限り、こういう連中は直接は手を出して来ないから。
あまり気にしない方がいい。また何かあったら直ぐボクに相談してよ。」
「うん、…ありがとうな、塔矢。」
(10)
それでもまだかなり不安げな顔色を隠せないでいるヒカルにアキラが尋ねた。
「まだ、何か他にもあるのかい?進藤。」
「…変な夢を見たんだ…。」
「夢?どんな?」
話そうとして、ヒカルはカーッと赤くなった。アキラに説明するのがはばかられた。
アキラも無理に聞き出そうとはしなかった。
「不安な気持ちから変な夢を見る事があるよ。ボクが家まで送ろう。」
「あ、いいよ。まだ明るいし。大丈夫。それじゃあ、ありがとう、塔矢。」
明るく笑顔を見せて手を振り、ヒカルは駆け出して行った。だがアキラにはヒカルがかなり
不安を抱えている事を感じ取り、心配げにヒカルの背中を見送った。
その夜はヒカルは母親に小言を言われるのを承知で風呂に入らなかった。
窓の向こうの闇の中に誰かがいるような気がしたからだ。朝出かける前にシャワーを浴びればいい。
少し頭痛がした。それでも目を閉じて暫くしたら眠りに入る事が出来た。
アキラに相談した事で多少気が楽になっていた。そう思っていた。
やはり違和感を感じて目を開けた。そして、何も見えない事にヒカルは動揺した。
手足が動かない。―まただ…!。
そして既に自分は何も身につけていない全裸であった。
「熱くないようにしておいたからね。」
同じ男の声がして、首の後ろから背中にかけて例の大きな手のひらが差し込まれて抱き上げられる。
温かな湯気を感じた。
「うわ…!」
ヒカルの体は足先からお湯の中に沈められていった。
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