sai包囲網・緒方編 9 - 10


(9)
 月明かりの下で見た艶めいた表情。柔らかそうな肌を晒け出す無垢な
色気。それに誘われるように、緒方は一歩踏み出し、不思議そうにこち
らを見上げるヒカルに唇を重ねた。
「んー、ん・・・」
 驚いて開いたヒカルの口内に緒方の舌が忍び込んで来る。縮こまった
ままの舌をやんわりと絡め取られ貪られて、飲み込めなかった唾液が唇
を伝って顎に落ちた。
 アキラと比べてはいけないだろうが、緒方のキスは巧みだった。これ
が本当のキスなら、アキラと交わしたのは子供のお遊びにしか思えなく
なって来る。官能的なキスに酔わされ、やっと解放された後、自分の脚
で立っていることができず、ヒカルはへたりと脱衣所の床に座り込んだ。
「進藤」
 頭上からかけられた声に恐る恐る顔を上げると、いつの間にか緒方が
服を脱ぎ捨ててしまっていた。その身体の中心の膨らみに、あんなに飲
んでてどうして勃つんだよーと、頭を抱えたくなった。
 性には奥手なヒカルだが、同級生と交わした猥談で、アルコールを飲
み過ぎると役に立たなくなるから、女を抱くときはほどほどにしておけ
くらいの知識はある。
 っていうか、オレ、今、すごくやばいじゃん。
 最初にアキラに無理矢理犯られたときのことを思い出して、ヒカルは
身震いをした。
『佐為〜』
『ヒカル、とにかくここから逃げるのです。部屋に戻れば、この者の連
れがいます。人前ではこれ以上無体なことはしないでしょう』
『でも芦原さん熟睡してたからなー、頼りになるかな〜?』
『いないよりはマシかと』
『そんな・・・うわぁ〜!?』
 芦原が聞いたら怒りそうな相談をしているうちに、緒方の接近を許し
てしまったらしく、ものすごい力に腕を取られて、足下がもつれるのも
かまわず浴室へと連れ込まれた。


(10)
「おが、緒方先生・・・」
「最近、アキラ君と仲がいいそうじゃないか、ん?」
 くいっと顎を取られ、目の奥を覗き込まれる。眼鏡のない緒方の顔を
こんなに近くで見るのは初めてだ。ヘビに睨まれたカエルよろしく首を
竦めてるヒカルに、緒方はふっと笑うと白いTシャツを胸元までたくし
上げた。
「ひゃっ!?」
「薄い胸だな」
「当たり前じゃん、男なんだから」
「男でも女でも感じるところはそう変わらないぞ」
 緒方の長い指が胸の先端に触れ、ヒカルはびくんと肩を上げた。緒方
に自分は反応してますと言ってるようなもので、ヒカルは耳まで真っ赤
になる。
「感度がいいな。アキラ君にずいぶん可愛がって貰ってるのか、ん?」
「何でそこで塔矢が出てくるんだよー?」
「やったんだろ?アキラ君と」
「やっ!?(///) んなの、緒方先生には関係ねーよ」
 ここでアキラとやってないと言わないところが、ヒカルらしい。
「では、こう訊こうか?アキラ君にsaiの正体を教えてやったのかな?」
「えっ?」
「それとも、文字通り口で黙らせたのか?」
 それではまるでヒカルが色仕掛けで塔矢の口を封じたみたいに聞こえ
ますよ。そんな器用なことがヒカルにできたら、あんなことにはならな
かったでしょうねぇ。佐為はふぅとため息をつく。
 緒方先生は、オレと塔矢が急に仲良くなったから、二人だけでsaiの
秘密を共有して、緒方先生をのけ者にしてるって思ってるんだ。こちら
はヒカルの考えだが、当たらずとも遠からずかも知れない。
「まぁ、今は、そんなことはどうでもいいか・・・」



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