金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 9 - 10


(9)
 「どうしよう…」
完全に出来上がってしまった三人を目の前にして、伊角は再び溜息を吐いた。
「大丈夫だよ。いつものことじゃないか…」
放っておけばいいと冴木は言った。
「そうだな。そのうち、正気に戻るだろう…」
門脇ものんきに笑った。
 だいたい誰のせいだと思っているのだ――と、伊角は言いたい。ヒカルに飲ませたのは
門脇だし、和谷にビールを与えたのは冴木だ。越智…越智は、気が付いたら飲んでいた。

 そうやって、悩む伊角の耳にけたたましい笑い声が響いた。
「アーハハハハ…何これー!」
「セーラー服だ…セーラー服だよ…誰ンだよ〜ヘンタイ〜」
ヒカルと和谷はヒイヒイとセーラー服を前に、腹を抱えて笑っている。
「あ、コラ!ダメだろ…人の荷物勝手にあけちゃ…」
慌てて止めようとした伊角に、ヒカルがしなだれかかってきた。


(10)
 「ねーねーこれ伊角さんの〜?」
「!?ち、違う!門脇さんのだ!」
力一杯否定した。
「ふーん…そーなんだ…」
そうすると、ヒカルは急に興味をなくしたように伊角から離れると、今度は門脇の方へにじり寄った。
「ねーねー門脇さんって、ヘンタイ?」
なんと言うことを言うのだ!この酔っぱらい!伊角がヒカルの口を塞ごうとしたが、門脇は
笑ってヒカルの両頬を軽くつねった。
「イテ!いひゃいよ…かろわきしゃん…」
「これは宴会グッズだよ。前の会社の同僚に貸してたのを、今日、返してもらったの。」
門脇が手を離すと、ヒカルは頬をさすりながら、鞄の中を覗き込んだ。
「ふ〜ん…こっちは何?」
「これか?これはバニーガールだな…こっちはチャイナドレス…」
興味津々なヒカルの前に、門脇は鞄の中身を広げた。ちょんまげカツラや町娘のカツラ、
宴会部長と書かれたたすきなども出てきた。
「サイズ大きいね…」
「こういう物は男に着せて笑いをとるもんだからな…でも、このセーラー服は女物だな…」
「これは女の人が着るの?」
「シャレでな。」
 「ふーん」と、ヒカルは暫くそれを見ていたが、おもむろにセーラー服を手に取ると
自分の胸に当てて、
「ねーねーこれ、似合う?」
と、トロンと目元を染めた笑顔のままで訊ねた。



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