スノウ・ライト 9 - 10
(9)
第二部前編が終了しました。ここでトイレ休憩をはさみます。
劇場内のトイレは混雑が予想されますので、五階の仮設トイレをお使いください。
ティッシュの使いすぎは紙詰まりの元になるのでお控えください。
ベルが鳴りましたらご着席ください。
(10)
じり(略)
ただいまより第二部中編を上演いたします。
由緒あるトウヤ国はどの国からも一目おかれています。
特に次期国王になるでしょう王子は、みなの憧れの的でした。
そんな王子の部屋から、ものすごい破壊音が聞こえてきました。
「ア、アキラ王子……」
壁の粉がぱらぱらと床に降ってきます。王子の手はぶるぶるとふるえていました。
「まだヒカル姫の行方がわからないだと!? ふざけるなっ」
アキラ王子、実は隣国のヒカル姫に片想い中です。
「ボクがヒカル姫に懸想してからもうずいぶん経った。もう見ているだけでは嫌なんだ」
ストーカーの気のある王子は、ことあるごとにヒカル姫を追いかけまわしていました。
ネットで調べたり、手下のユンやアマノを密偵につかったり、国の中枢機関であるキイン
を通じて、ヒカル姫に接触のあった者に近付いたりと、その執着ぶりはすさまじいものが
あります。王子はヒカル姫のこととなると周りが見えなくなるのです。
「あれは、まだボクが12歳のときだった……」
アキラ王子、回想モードに入りました。
「ボクは姫と一局うった。勝つ自信があった。ボクは神の一突きを極めようという志に
生きていたのだから……なのにボクの攻めは簡単にかわされ、あろうことかリードされ、
そしてはるかな高みから見下ろすようなテクを前に、ボクはあっけなく敗れたんだ……」
憂いに満ちたその美しい表情に、その場にいた名も無き下僕たちは溜め息をつきました。
「ボクが油断したからだと思った……だからもう一度挑戦したんだ。なのにボクは、姫の
テクに一度目よりも早く音をあげてしまった」
王子は一枚の棋譜を手に取りました。ヒカル姫との対局のものです。
「何度これでボクは抜いたことか。ボクはまたヒカル姫としたいと思った。なのに、姫は
ボクよりもツツイとか言う眼鏡男を選んだんだ。こんなひどい侮辱を受けたのは初めて
だった! それでもボクはあきらめずに追いかけた。だが、次にしたときのヒカル姫は
別人のようになってしまっていた……」
それでもヒカル姫とのエクスタシーが忘れられず、気付いたら王子は四六時中ヒカル姫の
ことばかりを考えるようになったのでした。
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