浴衣 9 - 13


(9)
「しんど……やめ………」
僕は動転していた。
進藤のくれる感覚は、一ヶ月前僕を支配した感情を呼び覚ます。
「いやだ、…進藤」
口では抗えのに、体は動かない。
進藤のなすがまま、すべてを受け入れている。
感じている。
許している。
「ふぁ……っ、………」
進藤が僕の足の親指をしゃぶっている。
やめて欲しい。
でも、間違いなく僕はこのふれあいを悦んでいた。
体も心も歓んでいた。
「ん……」
進藤の舌が、指の股を舐め上げたとき、僕は甘い声を漏らしていた。
それに励まされたのだろうか、進藤の左手が、浴衣の裾からしのびこみ、這いあがっていく。
「進藤―――!」
彼の指が、僕の肌に消えない熱を残していく。
ぞくりと背筋に快感が走った。
進藤は、僕の足指を咥え、舌を絡めながら、なんとも言えない瞳で僕を見つめている。
彼が欲しているものを、僕は理解した。
それは、僕も欲しているものだった。
僕は手を伸ばし、進藤の髪に指を忍ばせた。
彼の唇が、指を追い、滑っていく。
足の甲の水滴を舐め取り、舐めあげる。
かりっと踝に痛みが走った。
進藤が歯を立てたのだ。
僕の下腹部に熱が集まる。
僕は、少し強引に足を引くと、地面におろし、立ち上がった。
「進藤……、帰ろう」
僕は深い酩酊のなかをさまよう心地でそう告げていた。
手を繋ぐ代わりに、肩を触れ合わせるようにして、僕と進藤は歩き出した。
その間、交わす言葉はなかった。


(10)
「じゃあ、8時までに戻りますから、お留守番していてね」
母はそう言い置いて、父と連れ立ち出かけていった。
頼まれていた朝顔を忘れたことを告げると、母は「困った人たちね」と言いつつも、どこか嬉しげに父に縁日に行きたいんですけどと、お伺いを立てていた。
両親は、僕の目から見ても仲がいいと思う。
二人が角を曲がり視界から消えると、僕は静かに玄関の戸を閉ざし、鍵をかけた。
「髪を洗いたい」
僕はそう言うと、進藤を見つめた。それだけで進藤は僕のいとを察してくれたのだろう。
小さく頷いた。
人のいない家の中は、ひっそりと静まりかえっていた。
僕は進藤を風呂場へと案内した。
ドアを開くためにノブを握った手が、小さく震えていた。
内戸が開けっ放しだったから、脱衣所のところまで湯気で真っ白になっていた。
進藤が、裾の濡れたアロハを落しTシャツを脱いだ。
「進藤……」
いきなり、目の前に現れる進藤の背中。華奢なようで、しっかりと筋肉のついたきれいな背中に、そっと唇を寄せていた。
すると、進藤が振り返った。
僕の悪戯に振り返った進藤が、あの熱を帯びた瞳で僕の瞳を覗き込む。
「やっと二人きりになれた」
自分自身望んだ事なのに、改めてそう言われると、僕はかなり恥ずかしくなって、進藤の視線を避けていた。すると、ギュッと裸の胸に抱きしめられてしまった。
「塔矢……、そういう可愛い仕草を、他人に見せんなよ」
「可愛い?」
「おまえのこと狙ってる奴って、結構多いんだよ」
「なんだよ、それ。進藤の考え過ぎ……」


(11)
進藤の指が僕のあごを捉える。
優しく上向かれ、優しく唇を吸われる。
身体中に小刻みな震えが走った。
「塔矢が凄い碁打ちだってことを知ってるのは、俺の他にもたくさんいるけど、塔矢がこんなに感じやすいなんて知ってるのは、俺だけだ」
「進藤、なに馬鹿なことを……あっ――」
抗議は、最後まで言葉にならなかった。進藤が深く口付けてきた。
甘い刺激に、僕の全身から力が抜けていく。
進藤の膝が浴衣の裾を割り、僕の足の間に入りこんでくる。
「し、…しんどっ……」
進藤の太股が僕の性器に触れた。それだけで、僕は精神的には達していた……と、思う。
「塔矢?」
進藤に瞳を覗き込まれて、僕は二重の意味で真っ赤になっていた。
顔を背ける。いまは見て欲しくない。
君に触れてもらっただけで、こんなにも浅ましく喜んでいる自分を知られたくない。
「どうした?」
「なんでもない……」
「顔、隠すなよ」
隠せるものなら隠したい。
「風呂、はいろう」
消え入りそうな声でそう告げると、進藤の腕が動いた。
僕の内股を、進藤の手が撫で上げる。でも、そんな接触でさえ、僕の身体は反応を見せる。
もう片方の手が、背中で帯を解いている。
するりと、帯が落ちた。喉もとに口付けた進藤は、僕の鎖骨に舌を這わせた。
肌蹴た合わせを進藤は顔で暴いていく。なんて横着なんだ!
でも、その間にも片手と足を使って、進藤は僕の下着を下にずり下げ、もう片手は浴衣の裾を捲り上げ、尻の辺りをまさぐっていた。


(12)
乳首を吸われ、立っていられなくなった。
洗面台に体を預け、進藤の愛撫に身を任せる。
軽く閉じた瞼の裏に、神社の暗い水場で、僕の足の指をしゃぶっていた進藤の、あの唇が思い出される。
一度は無理矢理鎮めた熱が、凄まじい勢いでよみがえる。
「進藤―――」
全身の血液が、ただ一点に集まっていく。
「進藤………」
自分の声に煽られる。
僕はなんて恥ずかしい声で、彼の名を読んでいるのだろう。
「塔矢、……ヒカルって呼んでよ」
進藤の熱い呼吸が、僕の勃ち上がった性器にかかる。
君はどこに向かって話しかけているんだ!?
「進藤じゃなくて、ヒカルって……呼んで」
それはもう命令だった。
そう言う君こそ、いまだに僕を苗字で呼ぶじゃないかと怒鳴ってやりたかったが、そんな余裕はもう僕に残されていなかった。
「ヒカル!」
甘い声でも、優しい声でもなかった。
切羽詰った僕は、叫ぶように彼の名前を呼んでいた。
「ヒカル、……ヒカルっ……!」
進藤の舌が、僕の性器の先に触れた。透明な雫をこぼしているだろう鈴口の辺りで、ピチャピチャと濡れた音が途切れることなく聞こえたてくる。
「ヒカルぅ………」
僕のペニスが、進藤の柔らかい粘膜に包まれた。
自分では再現することのできない快感が、そこを中心に全身に広がっていく。
「ヒ……カァ……………ん」
精神的に、散々高められていた僕は、あっけなく進藤の口になかに欲望を迸らせていた。


(13)
「きて」
進藤が僕の手をとり、いつの間にか溢れていたバスタブへと誘う。
派手にお湯を無駄遣いして、僕と進藤はぬるめの湯の中に身体を浸した。
「ここ……」
進藤が、僕の右腕の内側を指さす。
「あれ…、いつ食われたのかな…」
赤い虫刺されのあとを指で擦りながら、僕がそう言うと、進藤がプッと小さく吹き出した。
「なんで笑う?」
「いや、……塔矢、それ痒い?」
「ううん、別に痒く……ぁ…」
それがなんなのか、やっと理解して、僕は口ごもる。
そんな僕の胸元に、進藤が後ろから腕を伸ばし、指を這わす。
「確か……ここと、ここにも………」
点々と身体に散った赤い鬱血の跡。
「印だよ」
進藤は小さな声でつぶやいたはずなのに、風呂場に反響して、やけにはっきり僕の耳に届く。
「塔矢が俺のものだって、印だよ」
ドキッと、鼓動がひとつ大きく乱れる。


僕は吐息と一緒に身体中から力を抜いて、進藤の右腕にそっと頬を預けた。
いつも羨ましく思っていた、進藤のしなやかな筋肉が、僕の頭を受け止めてくれる。
男の自分が、男の進藤を好きになる。
それは自分が女になることだと、畏れてきたけれど。
そうだね。
それじゃ、進藤の気持ちまでは説明できない。
「好きだ」って言われる事を待っていた。
男同士だからと、臆病になっていた。
むずかしく考える必要なんてなかったんだ。
僕の有りの侭で、進藤を好きだと素直に認めるだけでいいんだよ。



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