初詣妄想 9
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「へぇ……、大変なんだね?アキラたん、お疲れ様」
俺はアキラたんが甲斐甲斐しく酒や料理を運ぶ姿を想像しながら、
首をぺこりと下げてみせた。
「いや、そんなことないよ。確かに忙しいけど、面白いよ。
特に芦原さんなんか見てると…」
アキラたんはにっこりと俺に笑いかけてくる。
まあ確かに、人間笑い袋を見てたら面白いかもしれないけど…
アキラたん、なんて偉いんだ!ぎゅうっと抱き締めたくなってきちゃうじゃないか!
「アキラたん、それ、毎年なんだよね?毎年そんな感じなの?」
「うーん、いつもだと緒方さんが結婚しないのかってみんなから言われて
水割り片手にやさぐれてる位だから…今年はちょっと雰囲気違ったかな」
そういえば、緒方さんは何で今年水割りじゃなくて日本酒だったんだろう?と
これまでを振り返りながら、アキラはぼんやりと考えていた。
参道が混みあっていたせいで、進みも大分遅かった。しかも、どれだけ歩いたら
本殿に辿り着くのだろう?既に30分以上経っていると思うし、もう1km位は
歩いたんじゃないかと思うけど、それでも前も後ろも人の頭で埋め尽くされている。
黒山の人だかり、の「黒山」って、この、人の頭の事を言うんだろうか、
と全然違うことを思いながら、俺は右手でポケットを探った。
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