Happy Little Wedding 9


(9)
「アキラさん、ご飯の間はクマさんに、別の所に座っていてもらいましょうね」
「ン・・・」
アキラは渋々クマのぬいぐるみを母親に渡し、明子夫人がそれを夫に渡した。
「あなた、そちらの空いている席にこの子座らせてくださる?」
「うむ」
アキラは一人で器用にナプキンを広げ、端を襟元にわしわしとつめ込んだ。
細い肩から胸にかけてを全部ナプキンで覆い終えるとスープ皿をじっと見つめて、
あまりに肌理が細かいため光っているように見える、その小さな鼻をひくつかせている。
何となく照る照る坊主を連想しながらその姿を見守っていると、アキラが不意に顔を上げた。
「緒方さんは、これしないの・・・?」
「えっ?」
「白いおようふくは、お洗たくがたいへんなんだよぉ?」
「ああ」

緒方は自分の体を見た。普段は自己主張の少ない中間色を着ることが多い緒方だが、
この旅行では珍しく白いカーディガンを着て来ていた。
柔らかな肌触りと形が気に入って二、三年前に買ったはいいが、
普段着慣れない白は目立ち過ぎる気がして結局一度も袖を通さずにいたものだ。
今回は高原への旅行で昼夜の寒暖差が大きいというので、
脱いでもあまり荷物にならない薄手のそれを着てきたのだが――
「・・・それじゃあ、脱いでおこうかな」
アキラの目を見つめながら緒方がカーディガンのボタンに指をかけ始めると、
アキラは満足そうに「でしょぉ〜?」と笑った。



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