第162局補完 9
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ヒカルから視線を逸らし、ヒカルの肩に頭をぶつけた。
よろけそうになったヒカルは咄嗟に手すりに掴まった。
「思うはず、ない。
そんなのはウソだ。何かの錯覚だ。気のせいなんだ。
ボクは、ボクはそんなの要らない。
欲しいのは碁打ちとしてのキミだけだ。
それだけなんだ。それ以外のキミなんて、要らない。要らないはずなんだ。」
遣り切れない思いを晴らすように拳をヒカルの胸に打ちつける。
「キミより強い碁打ちなんていっぱいいる。
キミじゃなくたっていいはずなんだ。
キミじゃなきゃダメだなんて、キミがいなかったら誰と打っていても楽しくないなんて、そんなはず、
ない。どんなに強い、手強い相手と打っていても、どんなに興奮するような勝負を戦っていても、
それでもキミの事を考えてしまうなんて、そんなはずないんだ。」
もう一度、強くヒカルの胸を打ってから、アキラは顔をあげてヒカルを見た。
「進藤、」
黒く濡れる瞳に見つめられて、ヒカルは言葉を返すことができない。
アキラの腕が伸びてヒカルの首に絡まる。有無を言わせずアキラの唇がヒカルの唇を覆い、熱く
柔らかな舌が侵入してくる。荒々しく乱暴に、アキラはヒカルの口内を探り、絡めとり、吸い上げる。
その激しさに、ヒカルはそれを受け止めるしかできない。
酸素を求めるように僅かに唇が離れた隙に、アキラの唇がヒカルの名を呼んだ。
「進藤……」
熱く掠れた甘いアキラの声に、ヒカルはアキラの身体を抱きしめた。強く、強く抱きしめながら、また、
唇を重ねると、首に絡まる腕に、更に力がこめられたのを感じた。
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