検討編 9


(9)
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、」
荒く息をついている彼の顔を覗きこむようにして、彼の名を呼ぶ。
すると彼はゆっくりを目を開けて、自分を認める。
潤んだ瞳がそれでも真っ直ぐに自分を見ていて、そこに込められた熱と、紅潮した頬に、上気した表情に胸が締め付けられる。
「塔矢、」
半開きに開かれた唇に指を伸ばして輪郭をなぞり、そっと頬を撫でた。
それから目元から零れる涙を優しく拭う。

これは…誰だろう。
アキラは思考の戻らない頭で、自分を覗き込む顔を、愛しげに触れる指先をぼうっと眺めた。
「とうや、」
この声は誰のものだろう。
聞いた事も無い、こんな優しい、熱っぽいい響きは。
名前を呼ばれるだけで、好きで好きでたまらない、そう言われているように感じてしまう。
「とうや、」
けれどその声は低く掠れてどこか苦しげでもあって。
手を伸ばして頬に触れる指を捕らえ、指先にそっとキスした。
爪の磨り減った指先が愛おしい。
ずっとキミに会いたかった。
ずっとキミを、待っていた。
そんな苦しそうな顔をしないで。
大丈夫だよ。ボクもキミが好きだから。
そして目を開けてヒカルに微笑みかけ、彼の目を見つめながら手を伸ばし、彼の首に腕を絡めた。



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