戻り花火 9


(9)
社が数日間の予定で上京してくることになったと切り出されたのは七月の初め、
アキラとよく会う碁会所でのことだった。
「・・・ふーん」
咄嗟には、それだけしか言えなかった。
いま石を置こうとしていたところだったのに、どこへ打つつもりだったかわからなくなる。
自分とアキラの間で生き生きと意味ある模様を織り成していたはずの盤面が一瞬、
無機質な白黒のドットで構成されたバラバラの絵に見えた。

それでも指は勝手に道筋を見つけ、自動操作のように盤上の一箇所に黒石を置いた。
石を打ってしまったことに気づいてから、慌てて頭の中でその場所で良かったか確認する。
幸いそれはヒカルが打とうと考えていたのと同じ場所で、打たれたアキラも「なるほど」と呟き
腕組みをして考え込んでいる。
伏し目勝ちにしていると強い目の光が隠れて少し儚い雰囲気になるアキラの顔を見ながら、
出来るだけ無感情な声でヒカルは言った。
「――で?」
「うん。関西棋院には、同年代で彼の相手になる棋士がいないらしくて。キミやボクや
中韓の棋士と打てた北斗杯が懐かしいって言うから、夏休みにこっちに来て研究会でも
しないかってボクのほうから言ったんだ」
用意されていたような淀みない答えを返しながら、アキラが白石をパチリと置いた。



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