Shangri-La 9


(9)
一人でいる事が辛くて、アキラは理由なく街を彷徨う。

歯磨き粉を買おうと通りがかりのドラッグストアに入った。
フレグランスを選ぶカップルを横目でちらりと見て溜息をつき、
手早く買い物を済ませた。
店を出るとき、入り口近くにいたそのカップルの姿はなく、
アキラは、棚に並んだ色とりどりの瓶を見ながら、
ヒカルが初めて香水をつけてきた日のことを思い出した。

見たことがない位にきらきらと目を輝かせて、
僕のために選んだと言ってくれた。
――進藤と、その腕の中の僕のためのもの、って。
あの香りは、この中にあるだろうか…?
アキラはふらふらと近寄って、棚にある小瓶を次々に手に取ってみたが
どの香りもヒカルの香りではない事以外は分からなかった。

雑踏の中にいても、孤独感は消えるどころか、かえって募るばかりだった。
「どこにいても一人」
どこかで聞いたフレーズが、ちらりと頭をよぎった。



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