バレンタイン 9


(9)
アキラたんが何度も振り返り、手を振りながらドアの向こうに消えていく。
カウンターに入ると、二つあるレジの一つを締めていた小倉君はちらりと俺を
見、「彼女、いいの?」と呟いた。
「へ?」
彼女? 確かにアキラは今日はコーデュロイのパンツに膝丈のピーコートを着ていたが、
声や所作はどう考えてみても女の子と間違われるものではないと思うのだが。
「いまどきオカッパの子って珍しいね。送ってきてやったら?」
「いいのかよ」
「どうせ往復10分くらいだろ。それに、もう今日は客そんなにこねぇよきっと」
ああ、小倉君が神様に見える。たとえ、賞味期限の過ぎたおにぎりを持って帰って食べていることを
知っていても、彼のことだけは誰にも言うまいと俺は誓うよ。
「小倉君ありがとう……!」
俺はもうすぐ角を曲がってしまうアキラたんを追いかけるため、カウンターを張り切って跨いだ。

ああ、アキラたん。
重すぎる紙袋のせいで、肩が少し下がっているアキラたん。
そのせいでオカッパが少し左下がりになっているのも愛しいよアキラたん。
「アキラた――ん! 送っていくよ!」
ゆっくりと振り向くと、アキラは満面の笑みを浮かべて立ち止まった。



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