通過儀礼 覚醒 9


(9)
「アキラさん、そろそろご飯にするからお父さん呼んでくれる?」
お風呂をでたアキラは、明子に言われて行洋の部屋へ行った。
「おとうさんごはんだよ」
だが行洋はそこにはいなかった。部屋にはまだ途中の碁盤が置いてある。不思議に思い、
アキラは明子のところへ戻った。
「おかあさん、おとうさんいないよ?」
「あら、いない? おかしいわね。どこへ行ったのかしら。トイレとかも探してくれる?」
そう言われ、アキラは廊下に行った。
日もすっかり暮れ、廊下は真っ暗だった。アキラは背伸びをして廊下の電気をつける。す
ると突然大きな物体が現れて、アキラは驚いた。
「きゃっ! …おとうさん? どうしたの?」
アキラは行洋のそばへ駆け寄る。
アキラにお風呂に一緒に入ることを拒否され、エッチとまで言われた行洋は、ショックの
あまりその場にずっと立ち尽くしていたのだった。
「おとうさん、ごはんだよ」
アキラは訝しげに行洋を見上げて手を握った。
「あ、ああ。わかった」
行洋はそれだけ言うと食卓へと向かった。
アキラにはその背中が何故だかいつもよりも小さく弱々しく見えた。
「どうしたんだろう、おとうさん」
幼いアキラにはそれが何故かはわからなかった。


                         覚醒  −終−



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