裏階段 三谷編 9


(9)
自分でも不思議なくらいひどく興奮していた。
久しくアナルセックスから遠ざかっていたせいもある。
女性との交渉事も何か煩わしくて最近娯楽はもっぱら酒に走っていた。
人と飲む事があれば一人で飲む事もある。
勝手な理屈かもしれないが、そんなふうに女の事に関心が薄れて来ると
そろそろ結婚してもいいかなと考えたりもする。
適度に器量が良くて口煩くなければ誰でもいい。一人だけに縛られる気はさらさらない。
そういう話もないわけじゃない。人の顔を見ればお見合い写真を見せたがる後援会関係の輩は
一人や二人ではない。
もっとも、それこそそういう「つて」で結婚してしまえば、二度とこういう
火遊びどころではない“遊び”は出来なくなるだろうが。

「…ううーん…」
先刻より一段階奥に突き入られて彼は苦しげに呻いていた。
霧吹きで吹いたように細かな汗の水泡が首から胸、腹部にかけて浮かび上がっている。
ホテルの部屋の空調が若干高めのせいもある。こちらのシャツも汗で背中に張り付いていた。
だが服を脱ぐ気はなかった。恋人として肌を抱くわけではないからだ。
彼の体を押さえ付けてさらに奥へと無理矢理押し入ろうとした。
その時、彼の胸に視線を落としてぎょっとなった。
仰け反ったその胸の中央が縦に裂けてもう一人の少年の顔がこちらを覗いていた。
赤みがかった髪と薄茶色の瞳の彼と良く似た別の少年。それが、
頭部を、そしてゆっくりと上半身を持ち上げてこちらと向き合った。



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