アキラとヒカル−湯煙旅情編− 9
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「進藤・・・大丈夫?」アキラがヒカルの前髪をかきあげる
「そのまま寝かしてやれ・・・しかし三杯は飲んでないぞこいつ。」ヒカルは泥酔していた。
筒井もいい気分で転がっている。どうやら影でちょこちょこやってたらしい。
「さて、ひとっ風呂浴びてくっか。」加賀は立ち上がると大きく伸びをした。
「こいつどうすっかな」筒井は幸せそうな顔で寝息を立て始めたところだ。
「良かったら、お二人もここで休んでください。」丁度立ち上がったアキラと、目が合う。
「まあ、オレだけあっちに寝てもかまわねえしな。」加賀は、慌ててアキラから目を逸らした。
―――やばい、やばい。
湯につかりながら加賀は呟いた。どうしちまったんだ、オレ。
もう、とうに忘れたはずなのに・・・。
幼い頃のアキラが蘇ってくる。加賀達がいつも遊んでいた公園に、母親に連れられてアキラはやってきた。
「仲良くしてやってね。」アキラの母親は見たこともないような綺麗な人だった。アキラはその影に隠れて、ちらちらと恥ずかしそうにこちらを見ていた。
「アキラさん、ちゃんとご挨拶なさい。」言われるとアキラは一瞬泣きそうな顔をして母親を見上げていたが、顔だけちょこんと出して「とーやあきらでしゅよろしく」と言うとすぐ顔をひっこめてしまった。すごく可愛かった。加賀は、ひと目でアキラに囚われてしまったのだった。
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