誘惑 第三部 9
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玄関にアキラが待っている。
ヒカルが靴を履こうとすると、スペースを空ける為に、すっとアキラの身体が動いた。
その動きに、ヒカルが一瞬止まった。止まってアキラを見る。アキラの目が何かもの言いたげに
自分を見ている気がする。忘れる事なんて、できるはずがなかった。この黒い瞳を。真っ直ぐな
眼差しを。
一瞬、ここがどこであるか、今がどういう状況なのかを忘れて、いつものように――以前のように、
彼を引き寄せて、唇を重ねてしまいそうになった。
だがヒカルが腕を伸ばした瞬間に、アキラが視線をそらせたので、ヒカルは行き場を失った手を
ぎゅっと握り締めて、そして自分もアキラから視線をはずして、スニーカーの紐を結び直した。
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