四十八手夜話 9
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その手はすでに、布団の下のヒカルの肌に伸びていた。
「君の気持ちも考えず僕が無粋だった」
ヒカルは黙って、アキラの手の感触を感じていた。
「三十分でいいだろうか?」
「は?」
「僕は誓う。これから必ず三十分はちゃんと前戯をすることを!」
いや、何も誓わなくても、と思ったが、塔矢アキラは大真面目だった。
呆れて自分の顔を見返すヒカルに何を感違いしたのか、眉を寄せてアキラが問い
掛けてくる。
「三十分じゃだめか? 四十五分の方がいいだろうか?」
その後、アキラの熱心な愛撫に次第に高められていく自分を感じながら、ヒカルは
心の中で決意した。
(オレは、こいつと一生ずっと一緒にいよう。こんな奴に付きあいきれるのはきっと、
世界中探してもオレだけだ。あと百年生きてたって塔矢に彼女なんてできっこない!
佐為の碁盤を賭けてもいい! こいつの面倒を見れるのはこの世でオレだけに
決まってる!)
次の週の手合に、ふたりは体のあちこちに湿布を張って現れた。
アキラはともかく、ヒカルはあからさまに目に見える所にも貼っていたので、冴木や
緒方に心配されたり笑われたりした。
実をいうと、あの夜、十五手中の八手までしか、実行できなかったのだ。結構体力を
食うし、変な場所の筋肉は使うし、そのくせ苦しいだけの体位もあったりして、
途中挫折してしまったのだ。
――それでも、続きをまたしようという約束はしていたが。
<四十八手夜話・おわり>
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