Cry for the moon 9
(9)
進藤の後ろ姿が見えなくなっても、しばらく俺は立ち尽くしていた。
中学生のころ、何をやっても俺は無気力だった。
父親の首も危ないみたいだったし、学校はつまらなかったし。
毎日が昨日の繰り返しで、退屈だった。そんな中、進藤と出会った。
まるで光が射しこんできたような気がしたんだ。
「ああ、そうか……」
太陽ではなく、月。
暗闇の中の俺を照らしたから、進藤に月のイメージがあったんだ。
そして今では遠くにいる進藤を象徴している。
俺は顔をあげた。月が明るく輝いている。夏の夜は短い。
空が低く、月は手に届きそうなほど近くに見える。でも届かないんだ。
今日習った英語の慣用句が思い浮かんだ。
「月をねだって泣く子供、か」
決して手に入りはしないのに、望んでしまった俺はバカだ。
月の輪郭が不意に淡くにじんだ。
* * * * *
俺は天に輝く月に焦がれた。
たった一度だけ、水面に映るその影に触れた――――
初めてのキスは中学一年生のとき。
夏の盛りの理科室。
相手は初めて好きになった人だった。
――――終わり――――
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