平安幻想秘聞録・第一章 9


(9)
 目を閉じた佐為も変わらず綺麗だ。切れ長の目は見えないけれど、形
のいい鼻、唇。顎のライン。じっと見つめてるうちに、下腹部の辺りが
急に熱くなり、ヒカルは咄嗟にぎゅっと身体を丸めて縮こまった。
 何だ、これ。胸が、すげー、どきどきする。何だよ、これ!
 ヒカルくらいの年頃なら、雑誌やビデオで艶めかしい女性の身体を見
たときに、こういう反応が現れるのは当たり前のことだ。だが、思春期
の一番多感な時期に、ヒカルは佐為と意識を共有していた。そのせいか
性的な衝動を無意識のうちにセーブする癖がついているらしく、あぁ、
オレって淡泊なんだなという自覚もしていた。
 なら、今、佐為に感じてるものは何だろう。胸の奥が熱くて痛くて、
押さえようとすればするほど苦しくて、声を漏らさないよう指の関節を
噛むようにして、低く呻く。身体の内側で血が沸騰しているみたいだ。
 佐為、佐為、助けて・・・!

「うっ、う・・・」
 啜り泣いてるような声に呼び覚まされて、佐為は隣で眠ってるはずの
ヒカルの姿を探した。寝具代わりの狩衣が小刻みに揺れ、ヒカルの身体
が震えているのが分かる。
「どうしたんです、光。どこか痛いんですか?」
「ちが・・・う、さ・・・い」
 目元を紅く染め、涙を滲ませたヒカルの妖艶さに佐為はハッとしなが
らも、乱れた髪を額から払ってやりながら、ヒカルに顔を近づけた。
「でも、顔が赤いですよ。熱でも出たのでは?」
 ヒカルにせがまれたとはいえ、やはり夕餉の前の対局で無理をし過ぎ
たのかも知れない。熱を計ろうと、額に当てた手をぎゅっと握られる。
縋るような仕種に、ヒカルの身体をそっと抱き起こして、自分の胸に凭
れかけされた。
「佐為ぃ・・・」



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