身代わり 9


(9)
佐為の指し示すところにヒカルは石を置く。
だがそれはかつてのように、漫然としたものではない。ヒカルは佐為の意図を感じ、理解し、
そして流れ着く先を見極めようとしていた。
佐為の刃が、何度も行洋に討ちかかる。しかしそれはするりとかわされる。
切っ先はなかなか届かない。
佐為は唇を引き結んだ。慌ててはいけない。最後まで粘って勝機を見出す。
あふれる佐為の気迫が身体を包み、ヒカルは自分がどんどん昂ぶっていくのを感じた。
それは性的なものにひどく酷似していた。
対局してこんなふうになるのは初めてだった。
佐為が誰よりも入れ込んでいる、行洋が相手だからか。
ふと胸元に触れてみた。服の上からでも乳首が硬くなっているのがわかる。
息が熱をはらんでいる。
(なんだよ、これ……なんでオレが……)
その状態はまるで手に取ったかのように、行洋にも伝わっていた。
自分も何度か経験したことがある。いや、現に今、行洋は興奮状態にいた。
新初段相手に、自分でも信じられない。
それだけではない。
せまい肩幅、細い腕、小さな手を見る。中学二年生の身体、それ自体は見慣れたものである。
だが息子のアキラには感じないなにかを、行洋は感じていた。
(戦いの行く先は、すでに視えている。だからか、詮無いことを考えてしまうのは……)
終局が見えたときこそ、気を引き締めねばならない。
息を吐くと、行洋は白石を碁盤に放った。



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