りぼん 9


(9)
とりあえず並んだ料理をはしから口に運んでいった。
サーモンのマリネがうまい。それに肉がとろけるように軟らかいタンシチューも。
「はい、進藤」
塔矢がパンにチーズをぬったやつを渡してくれた。それにかぶりつく。
「うっまい! にんにくの風味がするっ」
「ブルサンというフランスのチーズだ。こっちのサンタンドレもあっさりとしておいしいよ。
あと他にも……」
「チーズの名前なんてどうでもいいよ。味の説明もいらない、食えばわかるんだから」
キミらしい、と塔矢が笑った。え? 今のって笑うところなのか?
オレ、塔矢の笑いの感覚もよくわかんない。
「進藤、それは一緒に食べるんだよ」
メロンの上にのっかってた生ハムをオレがどけようとするのを塔矢がとめた。
「え〜、オレやだ。メロンはメロン、ハムはハムだろ。一緒になんか食えないよ」
「ためしに食べてみなよ。おいしいから」
「どう食おうとオレの勝手だろ。いちいち指図してくんな」
オレは塔矢を無視してハムをかじった。塩気と一緒に、ひっついてたメロンの甘さを感じた。
……たしかに一緒に食っても、うまいかも。
けどなんか悔しくて、オレはけっきょく別々に食べた。
ふと、塔矢があんまり食べてないことに気付いた。オレのほうばかり見てる。
「なあ、食べないのか?」
「キミの食べているところを見ていたいんだ」
「……見るな。食べづらいだろ」
なんとなくオレはまえに塔矢がワケのわかんない理由で、人前でものを食うなと口うるさく
言ってきたことを思い出した。
そうだ、オレの食ってるところはイヤラシイとか、誘ってるように見えるとか、オマエの頭
がおかしいんじゃないかってことを次から次へと……。
忘れてたのに、思い出したらムカついてきた。
今でもコイツはそんなふうに思ってるんだろうか。



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