しじま 9


(9)
立ったままでいるボクの手をにぎると、進藤は強く引っ張ってボクを座らせた。
進藤の両手はとても温かい。
握りこみながらさすられると、気持ちが良くて目を閉じてしまう。
思えば進藤は以前から、こんなふうにボクの手に触れてきた。
おまえの手は冷たい、って言いながら……。
「オレさ、ちゃんと和谷に言ったから」
本当に進藤は唐突に言ってくる。
「……何て?」
まるで突き放すかのような口振りに、自分で慌ててしまう。
「オレは塔矢を選んだって言ったんだ」
「それで彼は?」
口のなかがカラカラに渇いている。
「しかたないな、って笑った。そんで、最後だからキスしようって……」
「したのか!?」
した、と進藤はうなずいた。
そんなことまで馬鹿正直に言わなくたっていいんだ。
素直に言えば、全部それでいいわけじゃないんだ。
世の中には言わなくても良いことが、山ほどあるんだ。今のもその一つだ。
「きみは一言多いな」
「なんだよ!! 言わなかったら、いろいろ余計なこと考えるくせに!」
なんで和谷のことで進藤と睨みあわなくちゃいけないんだ。
ボクはこんな目で見てくる進藤を見たくなんかないのに。
「やめようぜ、もう」
進藤が大きな息を一つ吐いた。ボクは息をとめた。
「せっかく二人でいるんだしさ。言い合いはやめようぜ。って、おまえ、どうしてそんなに
泣きそうな顔してんだよ!」
鼻の奥が痛いから、ボクは本当にそんな顔をしているのだろう。
「だってきみが、やめようって言うから……」
声が情けないほどかすれている。
ボクは自分たちの関係をやめようって言われたと思ってしまったんだ。



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