初めての体験 Asid 9
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ボクは、進藤と自分の明るい未来のために、頑張ろうと思った。テクを磨こうと決心
したのは良かったが、生憎、その相手が見つからない。和谷はあれ以来、ボクの顔を
見ると、真っ青になって大慌てで逃げてしまう。
いろいろ物色をしているが、なかなか思うような相手は見つからない。ボクの計画は、
最初から躓いている。もう、溜息すらでない。
『この際、越智でもいい』とさえ思った。越智の指導碁の仕事は、結構楽しかった。
ことあるごとに「進藤に負ける」とプレッシャーをかけて遊んでやった。だいたい、ボクの
進藤に勝とうだなんて、五十六億七千万年早いのだ!だが、そのプレッシャーが却って、
越智の闘志に火をつけてしまったらしい…。あの時はごめんよ、進藤。越智の戦意を
喪失させようと思ったのに、逆にキミの足を引っ張ってしまって―――でも、越智との
対局で、キミが困ったり、悩んだりしているところを想像すると堪らなくなったんだ。
ワザとじゃなかったんだけど……いや、ちょっとは…かなりかな……ホント、ごめんよ。
その姿を、物陰からこっそりと見守りたいと思った。仕事さえなければ…。サボりたかったが、
プロ試験は研修センターで行われるため、そこに来ている関係者に見つかる可能性が
高いので、泣く泣く諦めたのだ。
仕事が終わって、プロ試験の時の進藤の様子を訊こうと、越智の家を訪ねたら……奴は、
あろう事か、ボクを門前払いにした!!ああ、きっと、可愛かっただろうな……困って
いる進藤は……。
あの可愛い唇を噛み締めたり、眉間にしわを寄せたりしていたのだろうか…?見たかった
……それが叶わないのなら、せめて話だけでも……。くっ!あいつは、今日の進藤を
独り占めするつもりなんだ。今頃、進藤が困っている姿を思い出して、鼻息も荒く自分を
慰めているに違いない―――と思った。あ―――あの日のことは、今、思い出しても
ムカムカする。
その時のお礼も含めて、越智を捜したが、今日は手合いの日ではないようだ。残念だ。
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