うたかた 9
(9)
加賀の何度目かのキスで、ヒカルは眠りから覚めた。けれど目を開けるのも何かを考えるのも億劫で、引き続きまどろみに身をまかせる。
ふいに、顔に何か冷たいものが触れた。
(────…?)
なんだろう、と思ったが、次第にどうでもよくなった。
『冷たいもの』は頬を撫で、額を滑っていく。ひんやりした感触が心地よかった。
「………。」
ヒカルが微笑んだ気がして、加賀は思わずヒカルの額に置いた手を浮かせた。
「…進藤?」
静かにそう呼ぶと、返事の代わりにヒカルは少しだけ瞳を開けて、すぐまた閉じた。
(……いつから起きてたんだか。)
少し動揺しながら、ごまかすようにヒカルの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「…何か食いたいものとかあるか?」
「…りんごのすりおろしたやつ…」
「わかった、すぐ作ってくる。」
台所に向かいながら、加賀はヒカルが元気になることを願う一方で、ヒカルの熱がこのままずっと下がらなければいい、とも思っていた。
風邪が治ったらヒカルは帰ってしまう。
「…放したくねえなぁ…。」
いっそのこと軟禁してしまおうか。
頭に浮かんだ言葉に自分で苦笑して、紅いりんごを一つ掴んだ。
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