夜風にのせて 〜惜別〜 9
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九
写真館の前で明はもう一時間近く待ち続けていた。
ひかるのことが心配で早めに着てしまったのだ。あの寂しげな後姿をずっと見送っていた
明は、ひかるを傷つけてしまったと後悔していた。ヒカルの身に何かが起こったのは確実
だった。それなのに自分は突き放してしまった。もしかしたら来ないのかもしれない。そ
んな不安が明を襲う。
その時黒塗りの大きな外車が写真館の前に止まった。
明はその車を見る。するとそこから赤いロングドレスに高級な毛皮のコートをはおった女
性が紳士風の若い男性に連れられて出てきた。
明はその女性をじっと見つめる。高貴で華やかでありながら妖艶な美しさをもつ女性に、
思わず見惚れてしまったのだ。
その視線に気付いたのか、女性が明の方を向いた。明は失礼なことをしてしまったと目を
そらした。
「お待たせしました、明さん」
聞き覚えのある声に、明は顔を上げる。それはひかるの声だった。
「…もしかして、ひかるさん?」
明は驚愕しながらその女性を見入った。その驚きぶりにひかるは思わず微笑んだ。
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