初めての体験 91 - 100
(91)
今日はアキラにとって、記念すべき一日になるはずだ。なぜなら、プロになったヒカルと
初めて対局するのだから―――――
そう言えば、これは幾つ目の記念日だったか…。アキラにとって、ヒカルとの出来事は
すべて記念日だった。
初めて会った日、大負けした日、囲碁大会で会った日、それから…囲碁大会の三将戦は、
記念日に入れてもいいのだろうか?ああ、ネットカフェで会った時の進藤は可愛かった。
頬をつつきたくなるくらいキュートだった。つい、意地悪を言ったが本気じゃなかったんだ。
若獅子戦…あの時も、意地を張ったりしないで、最初から素直に見学すれば良かった…。
初対局になるはずだったあの日、お父さんが倒れなければ…!と、一瞬でも思ってしまった
親不孝なボクを許してください。等々……。
こうして考えてみると、けっこう、二人は会えそうで会えないすれ違いが多い。運命は
残酷だと思った。大昔のドラマにこういう話がなかったっけ?
極めつけは、ヒカルの『もう、打たない』宣言だ。手合いに出てこないヒカルに焦れて、
学校まで押し掛けてしまった。久々に見たヒカルにいつもの明るさはなく、表情に憂いを
湛えていた。初めて見たあんなヒカルを…。やせた頬や、伏せた大きな瞳に陰を落とす
長い睫毛……。元気のないヒカルに、元気に反応してしまった自分は、結構な恥知らずだ。
でも、もういい。落ち込む心を隠しつつ、碁を打ち続けた自分の元に、ヒカルは
帰って来たのだから――――本因坊リーグ戦が終わった後、ヒカルが会いに来てくれた。
誰に、どんな誉め言葉をもらうよりも、嬉しかった。天野さんがいなかったら、その場で
押し倒していたかも……。だって、はにかむ進藤がすごく可愛かったから…。
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棋院で、アキラは越智に会った。とりあえず、挨拶をしておくことにした。今日の
アキラの心は、空のように広い。しかも晴天。風一つ吹いていない。嫌みの一つや二つ、
余裕で聞き流せる。一人きりなら、鼻歌の一つも飛び出しているだろう。
エレベーターを降りたところに、ヒカルが森下門下の人たちといた。すれ違いざまに
ヒカルと目があった。ああ、今日も進藤は超可愛い!この進藤を、今日は真正面から、
思う存分舐めるように、眺めることができるのか…。アキラは感慨にふけった。
この前の手合いの時、村上さんが羨ましかった。ヒカルを見つめ放題で―――――――
それに比べて、自分は……。相手のせいではないが、つい睨み付けてしまった。心が狭い。
ごめん、あの時の名前も覚えていない相手の人。
アキラを追って、ヒカルが対局室に入ってきた。
「やっと、対局できるな。」
ヒカルの笑顔が目に眩しい。心臓のドキドキがヒカルに伝わらないよう、努めて平静を装う。
が――――――
「二年四ヶ月ぶりだ。」
と、ぽろっと言ってしまった。これでは、自分が指折り数えてこの日を待っていたのが、
バレてしまうではないかと、アキラは慌てた。幸い、ヒカルは気がつかなかった。
本当に長かった―――――今日、やっと自分の望みが叶うのだ。
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対局が終わった後、そのまま、すぐに別れる気にはならなかった。せっかく、ヒカルと
一緒なのに……。ヒカルも名残惜しそうに、俯き加減に目を伏せた。時折、アキラの方に
訴えるような視線を投げてくる。目が潤んでいるように見えるのは、自分の願望がそう
見せているのだろうか?
「ボクのところで、今日の検討会しないか?」
さりげなく提案してみた。ヒカルの顔がパッと輝いて、大きく頷いた。
二人きりでエレベーターに乗り込むと、ヒカルがアキラの手にそっと触れてきた。
アキラが、驚いてヒカルを見ると、ヒカルは頬を染めて俯いた。だが、アキラの指先を
ギュッと握ったまま離さない。
―――――もしかして……!進藤もボクのことを……!?
心臓が早鐘を打つ。とても、碁会所まで我慢なんて出来ない。
アキラはヒカルを抱き寄せると、その愛らしい唇を奪った。ヒカルは、ちょっと抵抗
するように身じろいだが、アキラの背中におずおずと自分の手を回してきた。ヒカルの
口の中に舌を入れ、中を蹂躙する。柔らかくて、温かい感触がアキラの脳を痺れさせた。
「やだ…塔矢やめて…こんなところで…」
アキラの手がヒカルのシャツの下をまさぐった時、ヒカルが身を捩った。確かに、ここでは、
誰が乗り込んでくるかもわからない。棋院にいるのは、対局中の棋士だけではない。
職員や一般客も大勢いるのだ。
アキラは、無理矢理ヒカルから身体を離した。それを実行するためには、ずいぶんな
気力と理性が必要だったが……。
「オレ…碁会所までガマンするから…塔矢も…ね?」
「ね?」って、そんな顔して言われたら、余計に我慢できなくなるではないか。
ワザと?ワザとなのか?―――――進藤、キミはわかっていてやっているのか?
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棋院をでて、碁会所に着くまで地獄のようだった。歩いているときも、電車に乗って
いるときも、横にいるヒカルが気になって仕方がなかった。ついさっき、触れたばかりの
ヒカルの唇や、シャツの襟から覗く鎖骨に目がいってしまう。視線に気がついて、時折、
ヒカルが笑いかける。その笑顔の愛くるしさに、息が詰まりそうになった。今、ここで
窒息死したら、死んでも死にきれない。やめてくれ。
「あれ?閉まっている…今日、休み?」
ヒカルが、碁会所のドアに貼られた張り紙を見て、アキラに訊ねた。
「うん。市河さんの都合が悪くてね。臨時休業。」
アキラが、鍵を取り出しながらヒカルに返事をした。もしかして、最初から計画していた
ように、思われただろうか?そんなつもりじゃなかったけど…結果的には同じだし…
そうとられても、仕方がないか……。錠の開く音が、人気のないフロアーに響いた。
「ふーん…じゃあ、ちょうど良かったね…」
ヒカルの言葉に、アキラは顔を上げて、まじまじとヒカルを見つめた。
「え…だって…やっぱり…人がいたら…その…」
ヒカルは真っ赤になって、トレーナーの裾を弄りながら、俯いた。
もう、限界だった。アキラはヒカルの肩を抱いて、碁会所のドアをくぐった。
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誰も来ないとは思うが、念のため、入り口の鍵を内側からかけた。暗い部屋の中で、
ヒカルはぼんやりと突っ立っている。普段は、大勢の客で賑わっているこの場所が、暗く
静かなので、珍しいのかもしれない。
「暗いね…」
ヒカルが心細げに、アキラにしがみついた。確かに、非常灯の明かりが、部屋を微かに
照らすだけだ。
「灯り点けた方がいい?」
「うん…塔矢の顔が見たい…」
アキラは、部屋の隅の灯りだけをつけ、そこにヒカルを連れて行った。
「あまり、明るくすると、気づかれるかもしれないから…」
ヒカルは、小さく頷いて、アキラの胸にもたれかかった。心臓がドキドキする。ヒカルの
心臓もドキドキと早い。
アキラは、ヒカルにぶつけるようなキスをした。びっくりして、大きく目を見開く
ヒカルを、キスをしながら見つめた。ヒカルもアキラを見つめ返していたが、やがて、
目を閉じるとアキラに身を任せた。
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アキラの手が、ヒカルのシャツの下に滑り込んで、肌を撫でまわした。棋院で中断された
行為をもう一度初めからやり直す。ずっと、我慢していた分、少々、やり方が荒っぽく
なってしまう。アキラの激しい愛撫に、ヒカルは息を弾ませた。
「や…やだ…塔矢…痛い…もっと…やさしくして…おねがい…」
ヒカルの哀願に、アキラは我に返った。だが、優しくしようと思っても、ヒカルの肌の
感触や、耳元で聞こえる吐息や甘い声が、アキラの理性を一瞬で吹き飛ばしてしまう。
アキラは、ヒカルのトレーナーを下のシャツごと、胸元まで捲り上げた。白い胸に
可愛らしい飾りが二つ付いている。指先で触れてみた。
「あぁん…!」
ヒカルが声を上げた。もっと声を聞きたくて、胸の突起を指で弄った。摘んで引っ張る。
その度、ヒカルは身体を捩って、小さく声を上げた。
アキラは、邪魔な衣服をヒカルから、完全に剥ぎ取ってしまいたかった。乱暴に、
ヒカルのシャツを引っ張り、袖を抜いていく。ヒカルも逆らわず、アキラが脱がせ
易いように、身体を動かした。
アキラは、自分のセーターをテーブルの上に広げ、その上に、ヒカルを寝かせた。
今度は、下半身を脱がせにかかる。ベルトに手をかけ、外す。ヒカルは目を閉じて、
じっとしていた。ジーパンのファスナーを下ろす音が、やけに響いた。
靴も、靴下も、何もかもを剥がれ、ヒカルはテーブルの上に横たわっている。足だけ
下ろされ、爪先立ちになっている。アキラの視線を感じているのか身体は紅潮し、
瞳はギュッと閉じられ、手は堅く握りしめられている。身体も小刻みに震えていた。
寒いのか…それとも………出来るだけ、優しくしよう…。まあ、どこまでそうできるか
わからないけど…。ボクは、ひょっとして、ひょっとしたら…S…かもしれない…。
アキラは、自分も服を脱いで、ヒカルの胸に顔を伏せた。
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片方の乳首を舌で嬲りながら、もう片方を指で弄ぶ。
「はぁん…やぁ…」
ヒカルの喘ぎ声に、気分を良くして、何度も同じ行為を繰り返す。
「や…やだ…やめてよ…」
両方の乳首を交互に吸われて、ヒカルは悶えた。
アキラは、ヒカルの感じやすいところを少しずつ暴いていく。指をあちこちに這わせ、
ヒカルが反応すると同じところを何度も攻めた。
「ああぁ…やだあ……いじわる…やめてったらぁ…」
ヒカルが、アキラの行為を泣きながら責めた。
「意地悪ってこういうこと?」
アキラは、勃ち上がって震えているヒカル自身を、いきなり口に銜えた。
「ひゃあぁぁ――――――」
身体を反り返らせて、ヒカルはアキラの頭を自分から剥がそうとした。アキラはヒカルの
腰をしっかり持って、ますます深くヒカルを呑み込んだ。こういうことは、初めてだが、
何の躊躇いもなかった。自分の手や、唇や、舌が、ヒカルに快感を与えているのだと思うと
嬉しかった。もっと、もっと、良くしてあげるから。
「と…や…あぁん…だめ…でちゃう…やあ…」
ヒカルのその言葉を聞いて、アキラの愛撫は一層激しくなる。ピチャピチャという音が、
ヒカルを耳から犯し、更に高みへと導いていく。
「で…でる…でちゃうよ…あああ―――――――っ」
ヒカルが放ったものをアキラは、そのまま飲み込んだ。最後の一滴まで吸い出した。
苦みが舌を刺したが、そんなことはどうでも良かった。ただ、ヒカルのすべてを
味わいたかった。
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アキラは、ぐったりとしたヒカルの腰を抱え上げ、足を高く上げさせた。そして、ヒカルの
後ろを舌で湿らせる。
「――!や…」
ヒカルが弱々しく、身を捩ったが、それが却って、アキラの欲望に火をつける。遠慮なく、
舌が差し込まれ、入り口やその周辺が唾液で濡れそぼった。
「ひあ…やあ…やめて…やめて…」
アキラの舌の蠢きに耐えきれず、ヒカルが泣いて許しを請うた。大粒の涙が頬を伝っている。
アキラは、泣いているヒカルはとても可愛いと思った。もっと虐めて泣かせてやりたい
と言う気持ちが湧き起こる。ああ…ボクってやつは…!やっぱり……!
一旦、そこから舌を離し、代わりに指を宛った。ゆっくりと一本入れてみる。唾液に
助けられ、簡単に沈んでいく。
「!!!」
ヒカルの身体がビクンと跳ねた。
「あっ…あっ…」
アキラが指を動かすと、それに合わせて、ヒカルの身体が揺れた。もう一本、入れてみる。
捻ったり、突いたりして、中を慣らす。ヒカルは、肩で大きく息を吐きながら、アキラの
行為に耐えていた。
そして、三本目が入れられた。
「あっ…あっ…あぁ――――っあああああ」
ヒカルの顔は、もう、汗と涙でぐしょぐしょになっていた。
ヒカルは指で嬲られて、再び、達してしまった。
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アキラは、ヒカルの中から指を引き抜いた。ヒカルはもう声も出せず、肩を震わせて
すすり泣いていた。ヒカルの側に顔を寄せる。ヒカルの汗の匂いと甘い体臭がアキラの
鼻腔をくすぐった。ヒカルがアキラを潤んだ瞳で見つめた。頬の上を涙は流れ続けている。
何となく、ヒカルの涙を舐めてみた。
「んん…しょっぱい…でも、おいしい…」
アキラは、その行為にびっくりしているヒカルの目を覗き込んだ。ヒカルは、顔を赤らめ、
目を逸らした。
ヒカルのすべてが愛しかった。何だか、もっと意地悪をしたくなって困る。
「ね…進藤…入れていい?ここに…ボクを…」
ヒカルの後ろに触れながら、耳元で囁くと、ヒカルは、耳まで赤くして横を向いてしまった。
恥ずかしがるヒカルに、何度もしつこく訊ねると、黙って小さく頷いた。相変わらず、
赤くなって横を向いたまま、アキラと視線をあわせようとしない。
そこにアキラ自身を宛うと、ヒカルは身体を堅くした。何とか、力を抜こうとするが、
上手くいかないようだった。アキラは、ヒカルの乳首をペロリと舐めた。
「ひゃあん…」
ヒカルの力が抜けた瞬間を見逃さず、アキラは身体を一気に進めた。
「あああ――――――――!」
ヒカルが細い悲鳴を上げた。アキラは、かまわず押し進む。
「あ…あ…いたい…と…や…いたいよ…」
肩を押さえるアキラの腕を、ヒカルは掴んだ。アキラの動きを止めようとするが、アキラは、
ヒカルを揺さぶり続ける。
「やだ…いたい…やめてよぉ…!」
ヒカルの爪が、アキラの腕を引っ掻いた。腕に何本も朱色の線が走ったが、肩を押さえる
力は弛まなかった。アキラは、ヒカルの泣き顔に興奮して、ますます腕に力がこもった。
「あぁ…!はぁ…」
アキラの突き上げが、何かを掠めた。先ほど、指で弄られた部分…その更に奥を…。
アキラは笑った。意を得たりとばかりに、そこを突き上げ続けた。
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「ああ…と…や…いい…ああん…」
ヒカルが、アキラの動きに自分も合わせ始めた。
「…気持ちいい?」
「んん…イイ…はあぁん…!」
アキラの問いかけに、ヒカルは譫言のように答える。ヒカルの返事に、アキラは満足した。
そろそろアキラも限界に近い。ゆっくりだった動きが段々と激しいものになっていく。
「あっ、あっ、あっ」
ヒカルが断続的に悲鳴を上げる。それに煽られるようにアキラは、大きく突き上げた。
「―――――――――!」
声もなく、ヒカルの身体が硬直し、やがて静かに弛緩していった。
アキラもヒカルのその締め付けに、自分の欲望を解放した。熱いモノが、ヒカルの奥に
叩き付けられた。
やはり、今日はアキラにとって、最高の記念日となった。ヒカルと対局できただけではなく、
ヒカルを自分のものに出来たのだ。こんな、幸せがあっていいのだろうか?急に不安になった。
「進藤…ボクのこと好き?」
「あ…当たり前じゃん…!」
ヒカルは顔を真っ赤にして、アキラを睨んだ。今更、何を言っているんだとばかりに…。
「じゃあ、ボクの恋人になってくれる?」
コクリと頷くヒカルのあまりの可愛さに、また、やりたくなってしまった。
ヒカルが慌てて、それを止めた。
「オレ、オレ、今日はもうムリ…だって…だってさ…」
ヒカルは、もう三回もイッてしまっている。確かに、今日はもう止めておいた方がいいだろう。
「そんな顔すんなよ…これから、いくらでも出来るじゃねえか。」
ヒカルは、アキラにチュッとキスをしてくれた。自然と頬が弛んでしまった。
ヒカルにとっても今日は記念すべき日だった。遂に、念願のアキラとの初めてを経験したのだ。
「ついに、これを使う日が来た…」
自室の机の引き出しから取り出した物は、道玄坂のマスターからもらったシステム手帳。
「最初はやっぱり塔矢だよな…」
ヒカルは、緊張で震える手で、アキラの名前を書き込んだ。
<終>
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