Linkage 91 - 92


(91)
 緒方は素直なアキラの態度に苦笑しながら、挑発するように語りかける。
「その辺の女より、昨日のアキラ君の方がよほど魅力的だったがね。それに……」
 紅潮したアキラの頬を指でなぞりながら、緒方は言葉を続けた。
「アキラ君だって満更嫌そうでもなかったじゃないか。薬の効果もあるんだろうが、
それにしたってオレが驚くほど情熱的な一面を垣間見せてくれたんだぜ……」
 高ぶる感情を抑えきれないのか、アキラの普段より赤い唇は微かに震え、緒方の顔を
をじっと見据える瞳は潤んでいる。
緒方は背凭れから身を起こすと、アキラの鼻先からほんの数センチの至近距離に顔を近づけた。
「……そんな風に見つめるから、オレは……」
 頬をなぞっていた指先で、アキラの細い顎を引き寄せると、静かに唇を重ねる。
(……オレの矜持なんて、所詮は芥子粒程度のものだな……)
 しばらく呆然として緒方のなすがままになっていたアキラが、ようやく抵抗しようとしたその瞬間、
緒方は一気にソファの背もたれにアキラを押さえ込んだ。


(92)
 小学生のアキラを押さえ込むことなど、緒方にとっては造作無いことだった。
むしろアキラを圧迫しすぎないよう力を加減することに神経を使う。
 しっとりと吸い付く柔らかなアキラの唇の感触に酔いしれる一方で、どこか
俯瞰的に自身の愚かで浅ましい行為を見つめる自分に気付き、緒方は内心苦笑
せずにはいられなかった。
(この忌々しい頭痛のせいか……)
 絶え間なく襲う鈍い痛みが、背徳の淵に沈もうとする緒方を否応なしに理性の
岸辺に引きずり上げる。
一方で、塞がれた唇の僅かな隙間から漏れるアキラの喘ぎにも似た吐息が、
ローレライさながらに緒方を再び欲望の水底へと陥れようとしていた。
 拮抗する理性と本能に翻弄される緒方の胸をアキラはなんとか両手で押し返す。
だが、それはささやかな抵抗に過ぎなかった。
緒方の圧倒的な力を前に、ゆるゆるとその手を落とすと、アキラは緒方の
シャツの脇腹部分を力無く掴んだ。



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