裏階段 アキラ編 91 - 95
(91)
進藤に対する怒りと失意と自分に対する同じものがアキラの中で渦巻き
意識の下に潜んでいた衝動を揺り動かしているのだろう。
それらをもてあまし抑え切れないでいた。
そしてオレのところにやって来た。
そこから手を離してアキラの体をソファーの上に仰向けに倒した。
バスローブを左右に開いた。
明るい室内のライトの下に自分の体の秘部が曝け出されながら不思議なくらい
アキラは静かだった。
潤んだ瞳で天井を見つめ、両手を投げ出し、呼吸に胸を上下させている。
オレに見られる事で新たな興奮を得ているようだった。
幼さが残るように見えて、うっすらと色づき柔らかなそのラインは
ひどく淫猥に見えた。透き通る程に白い肉体の中で性的な箇所だけが
鮮やかに紅色を放っている。
清楚な物腰や衣服の下に隠されていた正体を見せつけられた気がした。
誘っているのだと直感的にそう感じた。
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無抵抗なそのアキラの体を夢中で貪った。
唇と指で、アキラの体のあらゆる部分に触れ、感触を味わった。
張り詰めた糸を弾くようにアキラは敏感にどんな微量な行為にも反応した。
頭の上でアキラの小さな悲鳴が断続的に聞こえた。
だが拒絶の言葉は一切なかった。
アキラにとって、オレにとっての不幸はその時は不粋な電話も訪問者もなかった事だ。
冷静さを取り戻すきっかけがないまま儀式のような行為は続けられた。
一度だけアキラの手が、オレの脱ぎ捨てた服が掛けられたソファーの背の上を
彷徨い、そこを掴んでオレの体の下から動こうとした。
「嫌なのか。…だったら止めるぞ。」
そう言うと怯えたようにアキラの手はそこから離れた。
王者のように気高く決して普段誰かの意志に従うことのない相手がそうして
こちらの命令に一切従順な事に理屈なくオレは興奮していた。
手が届かない、自分には相応しくないと思っていたものを一気に陵辱する。
背信行為だとわかっていても、止められない。
むしろ当然の権利のような気がした。
自分を抱いた男の息子を抱くという行為が。
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アキラの体をうつ伏せにし、指で慣らせた部分に腰を合わせた。
スローモーションのように白く細い背中が反り上がりしなるのを覚えている。
ひときわ高く切れ切れの悲鳴をアキラに吐かせた。
ゆっくりだが、確実にアキラのそこはオレを呑み込んで行った。
痛々しい程痩せた細い腰でありながら臀部は小高く丸く形良く盛り上がり
その中央奥の秘口は想像していたよりは肉厚で柔らかだった。
ふと、アキラは普段からここを自慰行為の対象にしているのではとさえ思った。
それを否定するようにアキラの腰の下に脱げ落ちていたバスローブの上に
赤い染みが落ちて広がった。
一度に全てを受け容れさせる事はできなかった。
それでも確かに、二つの肉体は物理的に繋がった。
「…辛いか?」
体の下で肩を震わせているアキラに尋ねた。
アキラは数回息を吐いた後無言で首を横に振った。
そのアキラの下肢に手を這わした。
ここに宿りつくまでに何度か精を吐き出させ、熱を無くしたアキラの分身を
労るように手で包んでそっと摩った。
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そしてアキラの体をしっかりと抱き締めた。
互いに全身が汗ばみ雄の芳香が部屋中に漂っていた。
片手でアキラの頬を探るとアキラが声もなく泣いているのがわかった。
「…もう少し我慢しろ…。」
そう伝えると、ビクリとアキラの体が震えた。
ゆっくり腰を引いてアキラの奥から離れかける。
「ああ…」
アキラが大きく溜め息を漏す。その口に指を差し込みアキラの歯列に触れた。
抜けかかった腰を再び奥へ進める。それを繰り返す。
アキラの歯がオレの指に食い込み、バスローブに赤い染みの欠片が増えて行った。
アキラが受けている苦痛はオレもよく知っている。
オレの場合はそれを望んでいない相手だった。
酒臭い何かが濁ったような吐息の中で、伯父は太い指を無理矢理オレの中に
ねじ込み、オレの意志と関係なく自分のモノを突き容れて来た。
伯父に捨てられたら行き場のなかったオレは、ただ歯を食いしばって
自分の身に何が起こっているのかも分からないまま時間が経つのを待つ他なかった。
次の日の朝、自分の布団に残った血染みを惨めな思いで拭った。
年令の割に発育が良かった肉体が多少乱暴な伯父の行為も許容した。
そういったものに自分の体が馴染むのに時間はかからなかった。
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ある日その最中に伯父が倒れ、助けを求めて外へ出た時先生がそこに居た。
部屋に入った先生は、そこで何が行われていたかすぐに察したはずである。
オレと伯父がどういう関係だったかも。
だがその事には一切触れず、先生はオレを自分の家に招き入れてくれた。
先生に感謝しながらもオレは心のどこかでいつか先生も夜中にオレの部屋に
来るのではと怯えていた。
だが先生は来なかった。その事に安心していたはずだった。
それがいつからか不安に変わった。
先生がオレを預かったのは本当に災難になった事に対する一時的な同情心だけで、
いつかはオレを突き放すのではないかと怯えた。
先生を捕まえなければ、何か、つなぎ止める方法はないかと考えた。
だがそう考える事が愚かしくて直ぐにやめた。
これ以上のものを求めてはならないと。
そんな心の闇の隙間を狙うように悪夢がオレを襲った。
夢の中で毎夜のように伯父が囁く。
お前はこの場所に相応しくないのだと。
『考えてみろ。どういう類の何人の男をお前は相手にしたかを―』
そう言って伯父は耳まで裂けるくらい口を開けて笑った。
濁った匂いが蘇って鼻についた。同じものが自分の体からも出ているような気がした。
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