初めての体験 アキラ
(92)
棋院で、アキラは越智に会った。とりあえず、挨拶をしておくことにした。今日の
アキラの心は、空のように広い。しかも晴天。風一つ吹いていない。嫌みの一つや二つ、
余裕で聞き流せる。一人きりなら、鼻歌の一つも飛び出しているだろう。
エレベーターを降りたところに、ヒカルが森下門下の人たちといた。すれ違いざまに
ヒカルと目があった。ああ、今日も進藤は超可愛い!この進藤を、今日は真正面から、
思う存分舐めるように、眺めることができるのか…。アキラは感慨にふけった。
この前の手合いの時、村上さんが羨ましかった。ヒカルを見つめ放題で―――――――
それに比べて、自分は……。相手のせいではないが、つい睨み付けてしまった。心が狭い。
ごめん、あの時の名前も覚えていない相手の人。
アキラを追って、ヒカルが対局室に入ってきた。
「やっと、対局できるな。」
ヒカルの笑顔が目に眩しい。心臓のドキドキがヒカルに伝わらないよう、努めて平静を装う。
が――――――
「二年四ヶ月ぶりだ。」
と、ぽろっと言ってしまった。これでは、自分が指折り数えてこの日を待っていたのが、
バレてしまうではないかと、アキラは慌てた。幸い、ヒカルは気がつかなかった。
本当に長かった―――――今日、やっと自分の望みが叶うのだ。
(93)
対局が終わった後、そのまま、すぐに別れる気にはならなかった。せっかく、ヒカルと
一緒なのに……。ヒカルも名残惜しそうに、俯き加減に目を伏せた。時折、アキラの方に
訴えるような視線を投げてくる。目が潤んでいるように見えるのは、自分の願望がそう
見せているのだろうか?
「ボクのところで、今日の検討会しないか?」
さりげなく提案してみた。ヒカルの顔がパッと輝いて、大きく頷いた。
二人きりでエレベーターに乗り込むと、ヒカルがアキラの手にそっと触れてきた。
アキラが、驚いてヒカルを見ると、ヒカルは頬を染めて俯いた。だが、アキラの指先を
ギュッと握ったまま離さない。
―――――もしかして……!進藤もボクのことを……!?
心臓が早鐘を打つ。とても、碁会所まで我慢なんて出来ない。
アキラはヒカルを抱き寄せると、その愛らしい唇を奪った。ヒカルは、ちょっと抵抗
するように身じろいだが、アキラの背中におずおずと自分の手を回してきた。ヒカルの
口の中に舌を入れ、中を蹂躙する。柔らかくて、温かい感触がアキラの脳を痺れさせた。
「やだ…塔矢やめて…こんなところで…」
アキラの手がヒカルのシャツの下をまさぐった時、ヒカルが身を捩った。確かに、ここでは、
誰が乗り込んでくるかもわからない。棋院にいるのは、対局中の棋士だけではない。
職員や一般客も大勢いるのだ。
アキラは、無理矢理ヒカルから身体を離した。それを実行するためには、ずいぶんな
気力と理性が必要だったが……。
「オレ…碁会所までガマンするから…塔矢も…ね?」
「ね?」って、そんな顔して言われたら、余計に我慢できなくなるではないか。
ワザと?ワザとなのか?―――――進藤、キミはわかっていてやっているのか?
(94)
棋院をでて、碁会所に着くまで地獄のようだった。歩いているときも、電車に乗って
いるときも、横にいるヒカルが気になって仕方がなかった。ついさっき、触れたばかりの
ヒカルの唇や、シャツの襟から覗く鎖骨に目がいってしまう。視線に気がついて、時折、
ヒカルが笑いかける。その笑顔の愛くるしさに、息が詰まりそうになった。今、ここで
窒息死したら、死んでも死にきれない。やめてくれ。
「あれ?閉まっている…今日、休み?」
ヒカルが、碁会所のドアに貼られた張り紙を見て、アキラに訊ねた。
「うん。市河さんの都合が悪くてね。臨時休業。」
アキラが、鍵を取り出しながらヒカルに返事をした。もしかして、最初から計画していた
ように、思われただろうか?そんなつもりじゃなかったけど…結果的には同じだし…
そうとられても、仕方がないか……。錠の開く音が、人気のないフロアーに響いた。
「ふーん…じゃあ、ちょうど良かったね…」
ヒカルの言葉に、アキラは顔を上げて、まじまじとヒカルを見つめた。
「え…だって…やっぱり…人がいたら…その…」
ヒカルは真っ赤になって、トレーナーの裾を弄りながら、俯いた。
もう、限界だった。アキラはヒカルの肩を抱いて、碁会所のドアをくぐった。
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誰も来ないとは思うが、念のため、入り口の鍵を内側からかけた。暗い部屋の中で、
ヒカルはぼんやりと突っ立っている。普段は、大勢の客で賑わっているこの場所が、暗く
静かなので、珍しいのかもしれない。
「暗いね…」
ヒカルが心細げに、アキラにしがみついた。確かに、非常灯の明かりが、部屋を微かに
照らすだけだ。
「灯り点けた方がいい?」
「うん…塔矢の顔が見たい…」
アキラは、部屋の隅の灯りだけをつけ、そこにヒカルを連れて行った。
「あまり、明るくすると、気づかれるかもしれないから…」
ヒカルは、小さく頷いて、アキラの胸にもたれかかった。心臓がドキドキする。ヒカルの
心臓もドキドキと早い。
アキラは、ヒカルにぶつけるようなキスをした。びっくりして、大きく目を見開く
ヒカルを、キスをしながら見つめた。ヒカルもアキラを見つめ返していたが、やがて、
目を閉じるとアキラに身を任せた。
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アキラの手が、ヒカルのシャツの下に滑り込んで、肌を撫でまわした。棋院で中断された
行為をもう一度初めからやり直す。ずっと、我慢していた分、少々、やり方が荒っぽく
なってしまう。アキラの激しい愛撫に、ヒカルは息を弾ませた。
「や…やだ…塔矢…痛い…もっと…やさしくして…おねがい…」
ヒカルの哀願に、アキラは我に返った。だが、優しくしようと思っても、ヒカルの肌の
感触や、耳元で聞こえる吐息や甘い声が、アキラの理性を一瞬で吹き飛ばしてしまう。
アキラは、ヒカルのトレーナーを下のシャツごと、胸元まで捲り上げた。白い胸に
可愛らしい飾りが二つ付いている。指先で触れてみた。
「あぁん…!」
ヒカルが声を上げた。もっと声を聞きたくて、胸の突起を指で弄った。摘んで引っ張る。
その度、ヒカルは身体を捩って、小さく声を上げた。
アキラは、邪魔な衣服をヒカルから、完全に剥ぎ取ってしまいたかった。乱暴に、
ヒカルのシャツを引っ張り、袖を抜いていく。ヒカルも逆らわず、アキラが脱がせ
易いように、身体を動かした。
アキラは、自分のセーターをテーブルの上に広げ、その上に、ヒカルを寝かせた。
今度は、下半身を脱がせにかかる。ベルトに手をかけ、外す。ヒカルは目を閉じて、
じっとしていた。ジーパンのファスナーを下ろす音が、やけに響いた。
靴も、靴下も、何もかもを剥がれ、ヒカルはテーブルの上に横たわっている。足だけ
下ろされ、爪先立ちになっている。アキラの視線を感じているのか身体は紅潮し、
瞳はギュッと閉じられ、手は堅く握りしめられている。身体も小刻みに震えていた。
寒いのか…それとも………出来るだけ、優しくしよう…。まあ、どこまでそうできるか
わからないけど…。ボクは、ひょっとして、ひょっとしたら…S…かもしれない…。
アキラは、自分も服を脱いで、ヒカルの胸に顔を伏せた。
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片方の乳首を舌で嬲りながら、もう片方を指で弄ぶ。
「はぁん…やぁ…」
ヒカルの喘ぎ声に、気分を良くして、何度も同じ行為を繰り返す。
「や…やだ…やめてよ…」
両方の乳首を交互に吸われて、ヒカルは悶えた。
アキラは、ヒカルの感じやすいところを少しずつ暴いていく。指をあちこちに這わせ、
ヒカルが反応すると同じところを何度も攻めた。
「ああぁ…やだあ……いじわる…やめてったらぁ…」
ヒカルが、アキラの行為を泣きながら責めた。
「意地悪ってこういうこと?」
アキラは、勃ち上がって震えているヒカル自身を、いきなり口に銜えた。
「ひゃあぁぁ――――――」
身体を反り返らせて、ヒカルはアキラの頭を自分から剥がそうとした。アキラはヒカルの
腰をしっかり持って、ますます深くヒカルを呑み込んだ。こういうことは、初めてだが、
何の躊躇いもなかった。自分の手や、唇や、舌が、ヒカルに快感を与えているのだと思うと
嬉しかった。もっと、もっと、良くしてあげるから。
「と…や…あぁん…だめ…でちゃう…やあ…」
ヒカルのその言葉を聞いて、アキラの愛撫は一層激しくなる。ピチャピチャという音が、
ヒカルを耳から犯し、更に高みへと導いていく。
「で…でる…でちゃうよ…あああ―――――――っ」
ヒカルが放ったものをアキラは、そのまま飲み込んだ。最後の一滴まで吸い出した。
苦みが舌を刺したが、そんなことはどうでも良かった。ただ、ヒカルのすべてを
味わいたかった。
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アキラは、ぐったりとしたヒカルの腰を抱え上げ、足を高く上げさせた。そして、ヒカルの
後ろを舌で湿らせる。
「――!や…」
ヒカルが弱々しく、身を捩ったが、それが却って、アキラの欲望に火をつける。遠慮なく、
舌が差し込まれ、入り口やその周辺が唾液で濡れそぼった。
「ひあ…やあ…やめて…やめて…」
アキラの舌の蠢きに耐えきれず、ヒカルが泣いて許しを請うた。大粒の涙が頬を伝っている。
アキラは、泣いているヒカルはとても可愛いと思った。もっと虐めて泣かせてやりたい
と言う気持ちが湧き起こる。ああ…ボクってやつは…!やっぱり……!
一旦、そこから舌を離し、代わりに指を宛った。ゆっくりと一本入れてみる。唾液に
助けられ、簡単に沈んでいく。
「!!!」
ヒカルの身体がビクンと跳ねた。
「あっ…あっ…」
アキラが指を動かすと、それに合わせて、ヒカルの身体が揺れた。もう一本、入れてみる。
捻ったり、突いたりして、中を慣らす。ヒカルは、肩で大きく息を吐きながら、アキラの
行為に耐えていた。
そして、三本目が入れられた。
「あっ…あっ…あぁ――――っあああああ」
ヒカルの顔は、もう、汗と涙でぐしょぐしょになっていた。
ヒカルは指で嬲られて、再び、達してしまった。
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アキラは、ヒカルの中から指を引き抜いた。ヒカルはもう声も出せず、肩を震わせて
すすり泣いていた。ヒカルの側に顔を寄せる。ヒカルの汗の匂いと甘い体臭がアキラの
鼻腔をくすぐった。ヒカルがアキラを潤んだ瞳で見つめた。頬の上を涙は流れ続けている。
何となく、ヒカルの涙を舐めてみた。
「んん…しょっぱい…でも、おいしい…」
アキラは、その行為にびっくりしているヒカルの目を覗き込んだ。ヒカルは、顔を赤らめ、
目を逸らした。
ヒカルのすべてが愛しかった。何だか、もっと意地悪をしたくなって困る。
「ね…進藤…入れていい?ここに…ボクを…」
ヒカルの後ろに触れながら、耳元で囁くと、ヒカルは、耳まで赤くして横を向いてしまった。
恥ずかしがるヒカルに、何度もしつこく訊ねると、黙って小さく頷いた。相変わらず、
赤くなって横を向いたまま、アキラと視線をあわせようとしない。
そこにアキラ自身を宛うと、ヒカルは身体を堅くした。何とか、力を抜こうとするが、
上手くいかないようだった。アキラは、ヒカルの乳首をペロリと舐めた。
「ひゃあん…」
ヒカルの力が抜けた瞬間を見逃さず、アキラは身体を一気に進めた。
「あああ――――――――!」
ヒカルが細い悲鳴を上げた。アキラは、かまわず押し進む。
「あ…あ…いたい…と…や…いたいよ…」
肩を押さえるアキラの腕を、ヒカルは掴んだ。アキラの動きを止めようとするが、アキラは、
ヒカルを揺さぶり続ける。
「やだ…いたい…やめてよぉ…!」
ヒカルの爪が、アキラの腕を引っ掻いた。腕に何本も朱色の線が走ったが、肩を押さえる
力は弛まなかった。アキラは、ヒカルの泣き顔に興奮して、ますます腕に力がこもった。
「あぁ…!はぁ…」
アキラの突き上げが、何かを掠めた。先ほど、指で弄られた部分…その更に奥を…。
アキラは笑った。意を得たりとばかりに、そこを突き上げ続けた。
(100)
「ああ…と…や…いい…ああん…」
ヒカルが、アキラの動きに自分も合わせ始めた。
「…気持ちいい?」
「んん…イイ…はあぁん…!」
アキラの問いかけに、ヒカルは譫言のように答える。ヒカルの返事に、アキラは満足した。
そろそろアキラも限界に近い。ゆっくりだった動きが段々と激しいものになっていく。
「あっ、あっ、あっ」
ヒカルが断続的に悲鳴を上げる。それに煽られるようにアキラは、大きく突き上げた。
「―――――――――!」
声もなく、ヒカルの身体が硬直し、やがて静かに弛緩していった。
アキラもヒカルのその締め付けに、自分の欲望を解放した。熱いモノが、ヒカルの奥に
叩き付けられた。
やはり、今日はアキラにとって、最高の記念日となった。ヒカルと対局できただけではなく、
ヒカルを自分のものに出来たのだ。こんな、幸せがあっていいのだろうか?急に不安になった。
「進藤…ボクのこと好き?」
「あ…当たり前じゃん…!」
ヒカルは顔を真っ赤にして、アキラを睨んだ。今更、何を言っているんだとばかりに…。
「じゃあ、ボクの恋人になってくれる?」
コクリと頷くヒカルのあまりの可愛さに、また、やりたくなってしまった。
ヒカルが慌てて、それを止めた。
「オレ、オレ、今日はもうムリ…だって…だってさ…」
ヒカルは、もう三回もイッてしまっている。確かに、今日はもう止めておいた方がいいだろう。
「そんな顔すんなよ…これから、いくらでも出来るじゃねえか。」
ヒカルは、アキラにチュッとキスをしてくれた。自然と頬が弛んでしまった。
ヒカルにとっても今日は記念すべき日だった。遂に、念願のアキラとの初めてを経験したのだ。
「ついに、これを使う日が来た…」
自室の机の引き出しから取り出した物は、道玄坂のマスターからもらったシステム手帳。
「最初はやっぱり塔矢だよな…」
ヒカルは、緊張で震える手で、アキラの名前を書き込んだ。
<終>
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