初めての体験 93


(93)
 対局が終わった後、そのまま、すぐに別れる気にはならなかった。せっかく、ヒカルと
一緒なのに……。ヒカルも名残惜しそうに、俯き加減に目を伏せた。時折、アキラの方に
訴えるような視線を投げてくる。目が潤んでいるように見えるのは、自分の願望がそう
見せているのだろうか?
「ボクのところで、今日の検討会しないか?」
さりげなく提案してみた。ヒカルの顔がパッと輝いて、大きく頷いた。

 二人きりでエレベーターに乗り込むと、ヒカルがアキラの手にそっと触れてきた。
アキラが、驚いてヒカルを見ると、ヒカルは頬を染めて俯いた。だが、アキラの指先を
ギュッと握ったまま離さない。
―――――もしかして……!進藤もボクのことを……!?
心臓が早鐘を打つ。とても、碁会所まで我慢なんて出来ない。
 アキラはヒカルを抱き寄せると、その愛らしい唇を奪った。ヒカルは、ちょっと抵抗
するように身じろいだが、アキラの背中におずおずと自分の手を回してきた。ヒカルの
口の中に舌を入れ、中を蹂躙する。柔らかくて、温かい感触がアキラの脳を痺れさせた。
 「やだ…塔矢やめて…こんなところで…」
アキラの手がヒカルのシャツの下をまさぐった時、ヒカルが身を捩った。確かに、ここでは、
誰が乗り込んでくるかもわからない。棋院にいるのは、対局中の棋士だけではない。
職員や一般客も大勢いるのだ。
 アキラは、無理矢理ヒカルから身体を離した。それを実行するためには、ずいぶんな
気力と理性が必要だったが……。
「オレ…碁会所までガマンするから…塔矢も…ね?」
 「ね?」って、そんな顔して言われたら、余計に我慢できなくなるではないか。
ワザと?ワザとなのか?―――――進藤、キミはわかっていてやっているのか?



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