平安幻想異聞録-異聞- 93 - 94


(93)
佐為は大慌てで、廊下の中ほどにうつぶせに倒れる賀茂アキラに駆け寄った。
呼吸を確かめる。大分早い。おまけに熱い。
「アキラ殿!アキラ殿! しっかりして下さい!」
とりあえず寝所に運ばねばと、そのぐったりした体を抱え上げると、
アキラが目を覚ました。
「近衛が…」
自分を抱き上げる佐為の姿を認めてのアキラの第一声はそれだった。
「佐為殿、近衛が…」
「おだまりなさい、アキラ殿。その話は後でゆっくり聞きましょう。
 とりあえず、あなたの寝所はどこです?」
有無を言わさぬ、佐為の厳しさの混じった口調に、アキラは寝所の場所を
つぶやいて教えた。佐為はその部屋へ行き、1回アキラを降ろしてから寝床を
整えると、あらためてそこにアキラを寝かしつけた。
アキラの手が傷だらけになっているのに気付く。今日、内裏で会ったヒカル
も腕に怪我をしていた。
「佐為殿、僕は…、近衛が……」
うわごとのように擦れた声でつぶやくアキラを佐為が制する。
「そのような状態では、いったい何が起こったのか、順序立てて
 私に説明することも出来ないでしょう? アキラ殿。まずは、あなたの
 体調を戻すのが先です。私もそれまでは、どういう事がここで起こったのか、
 聞くことはしますまい」
佐為はそう言って、さらに熱冷ましの薬などがしまってある場所を問う。


(94)
それにアキラはゆるく首をふって、その必要はないと断った。
佐為が、なおもアキラに薬の必要性を説こうとすると、ふいに部屋に
一陣の風が吹き、となりにいつの間にか、一人のわらわが立っていた。
短く禿刈りに切りそろえられた色の薄い髪。なんのつもりなのか、
その幼さで瀟洒な眼鏡などかけている。
それが、どこからか持って来たらしい薬を、アキラの枕元に置いた。
驚く間もなく、その童は幻のように消え去ると、今度はそれと入れ替わるように、
部屋の入り口に、白湯を載せた盆を手にした、豊かな黒髪の美しい女房が立っていた。
趣味のいい襲ねの色をした十二単の裾を引きずりながら、部屋の中に入り、
アキラの枕元に膝をつく。
ゆったりとした動作でアキラの体を助け起こすと、持って来た白湯で、
先ほどの少年が持って来た薬をアキラに飲ませる。
このように身の回りの世話をする女房など、いつのまに雇ったのだろうと、
佐為が不思議に思いながらそれを眺めていると、薬を飲ませ終わり、立ち上がった
女房はそのまま廊下に出、これもまた、瞬きする間に霧が霧散するように
かき消えてしまった。
唖然とする佐為の耳に、アキラの声が届く。
「身の回りの世話を式神たちにさせると、近衛が怒るので、最近は控えていたのですが…」
「アキラ殿」
アキラはそのまま目を閉じると昏倒するように眠ってしまった。



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