平安幻想異聞録-異聞- 94
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それにアキラはゆるく首をふって、その必要はないと断った。
佐為が、なおもアキラに薬の必要性を説こうとすると、ふいに部屋に
一陣の風が吹き、となりにいつの間にか、一人のわらわが立っていた。
短く禿刈りに切りそろえられた色の薄い髪。なんのつもりなのか、
その幼さで瀟洒な眼鏡などかけている。
それが、どこからか持って来たらしい薬を、アキラの枕元に置いた。
驚く間もなく、その童は幻のように消え去ると、今度はそれと入れ替わるように、
部屋の入り口に、白湯を載せた盆を手にした、豊かな黒髪の美しい女房が立っていた。
趣味のいい襲ねの色をした十二単の裾を引きずりながら、部屋の中に入り、
アキラの枕元に膝をつく。
ゆったりとした動作でアキラの体を助け起こすと、持って来た白湯で、
先ほどの少年が持って来た薬をアキラに飲ませる。
このように身の回りの世話をする女房など、いつのまに雇ったのだろうと、
佐為が不思議に思いながらそれを眺めていると、薬を飲ませ終わり、立ち上がった
女房はそのまま廊下に出、これもまた、瞬きする間に霧が霧散するように
かき消えてしまった。
唖然とする佐為の耳に、アキラの声が届く。
「身の回りの世話を式神たちにさせると、近衛が怒るので、最近は控えていたのですが…」
「アキラ殿」
アキラはそのまま目を閉じると昏倒するように眠ってしまった。
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