平安幻想異聞録-異聞- 97 - 98
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情を交わす…とはよく言ったものだと思う。
人はお互いの体をつなげ、睦みあうことで、それまで見えなかった互いの
心の底のようなものが、透明に見えてくるようになるものなのだ。
佐為には以前にはわからなかったヒカルが判る。それはきっとヒカルも同じ
だろう。
あの少年はおおかた自らだけでなく、アキラや佐為まで傷つける呪をどうにか
するために、座間のもとに赴き、まんまと罠にはまったのに違いない。
その際、取引の材料として出されたのは自分の命か、行洋の命か、あるいは
ヒカルの家族の。
「だとすれば我々がすべきことは唯一つです」
佐為の言葉に、アキラが真摯な瞳で見返す。
「座間の元から、一刻も早くヒカルを助け出すこと。後悔にくれている暇など
ありません」
「しかし、座間邸や蠱毒の隠し場所のまわりに張られた結界は強く、卜占でも、
奇妙な結果が出るばかりで、飛ばした式神達もそれを見つけることが出来ません
でした。どうやって、その場所をさがしていいのか……」
「その結界は、人も通れないのですか?」
「え?」
「式神が効かないのなら、我らが自らの足で探せばよいのです」
アキラは虚を突かれた顔をした。常に式神を使役することに慣れたアキラにとって、
式神を使わず、自分の足で呪の元を探しだすなど、いっそ考えの外だったのだ。
「さあ、アキラ殿、その蠱毒の壺が埋めてりそうな場所はどこですか。すべて
ここに書きだして下さい」
佐為が紙と筆を差し出す。
「し、しかし、その可能性がある場所となると、近衛が普段生活する場所、ゆかりの
ある場所など、あげはじめたら切りがないほどで」
「だから、何だというのです。その場所が幾十幾百とあろうと、そのすべてを
しらみつぶしに探しだし、必ずこの忌まわしい呪の元を探しだして見せましょう!
さあさあ、アキラ殿!」
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少しの間、佐為のその勢いにたじろいだアキラだったが、佐為の顔を見て、力強く
頷くと、その紙と筆を受け取った。
蠱毒の壺の隠してある可能性のある場所を次々と書きだしていくアキラの手元を
見ながら、佐為は、ほんの数日前まで、自分の腕の中で安心しきって身を
任せていたヒカルの姿に思いをはせた。
少年の声が蘇る。
――『佐為には隠し事ができないよなぁ。だから』
――『だから?』
――『大好き』
(あなたの考えていることなどお見通しです。私に隠し事などできないと言ったのは、
ヒカル、あなたではないですか)
――願わくば、ヒカルが自分が思っているほど酷い目にあっていませんように。
ヒカルはまるで磔にされたような格好で、両手を上げた状態で立ったままで
壁に縛りつけられていた。
その少し広げられた足元には菅原が膝を付き、ヒカルの秘門に、ぬらぬら
と淫液で光る張り型をゆっくりと出し入れしている。
美しい綾織の布で猿轡をされたヒカルは、まゆ根を寄せ、喉の奥でくぐもった
声にならない淫声を漏らしながら、必死でその責め苦に耐えていた。
座間達は、夜も深くなり、月が天頂に上るころに、このヒカルに与えた部屋に
やってきた。
もちろん菅原も一緒だ。
着物をはがれ、荒縄で手首を壁に出っ張っている柱に打たれた大きな釘に
くくりつけて磔にされた。
足が縛られず自由なままなのがせめてもの救いだと思ったが、それが後で
さらにヒカルの苦痛を増すためのものだったとは、その時は思いもしなかった。
それが終わると、菅原はうやうやしく、その袖の中から何かをとりだした。
丁寧にそれを包む布をほどくと、出てきたのは黒光りする男根だった。
正確には、牛の角から削りだした、いきりたった男根の形をしたモノだ。
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