アメリカ、西海岸――。
 ハイスクールの寮の一室でベッドに入っていた手塚は、ふと、目を開けた。
「…………」
 時刻を確認する。
 デジタル画面に記されていた文字は「October 7 03:00」――10月7日の午前三時。
 まだ朝と言うには早い。もう数時間は寝ていてもいい。
 そんな時間だが、どういうわけか目はすっきりと覚めていた。もう一度横になろうという気が起きなかった。
(……何故……)
 理由を考える。

 今日は特別な日といえば、特別な日だ。
 手塚自身の18歳の誕生日である。

 だが、だからと言って早起きする理由にはならないだろう。チームメイトたちは何かパーティの計画を練ってくれているようだが、彼らのことだから他人の誕生日にかこつけて騒ぎたい口実が欲しいだけだということは解っている。まさか、深層心理ではそのパーティを楽しみにしていて興奮のあまり目が覚めてしまった、というのだろうか。
 ――それはありえないだろう、多分。
 軽く首を横に振る。
 その際、ベッドサイドの携帯電話が視界に入った。
「…………」

 自分の誕生日だから。
 ひょっとしたら、楽しみにしているかもしれない。
 そんな期待は、ないと言えば嘘になった。

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 中学卒業後、すぐに手塚はアメリカに留学した。
 テニスでプロを目指しながらも肩に爆弾を抱えている身としては、より最新の指導とリハビリを受けた方がよいとのと判断だった。留学の話はもっと以前から勧められていたことではあったが、ただ中学卒業まではという本人と家族の希望もあり、卒業と同時ということで落ち着いた。
 中学での部活仲間は皆そのことを喜んでくれ、温かく送り出してくれた。今でも時々思い出す。感謝の言葉もないぐらいだ。
 ……そう。
 全員が、自分のアメリカ留学を、喜んでくれた。
 その全員には、もちろん不二周助も含まれる。
 旅立つ空港で、不二は何も言わず、笑顔で自分を送り出した。

 ――じゃあ、さようなら。元気でね。
 いつもと変わらない、普通の言葉と普通の笑顔。
 それが最後だった。

 それから、一度も連絡は取っていない。

 こっちに来てからパソコンのメールも扱えるようになった。マメに連絡をくれる大石や乾を筆頭に、自分が中学一年生の時に世話になった先輩など、中学時代の友人達との付き合いは決して切れていない。
 だが、不二に関してだけは別だった。
 完全に連絡が途絶えている。
 向こうから連絡があったこともなければ、こちらから連絡したこともない。
 そうして二年半が過ぎた。

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(……二年半、か)
 決して短い時間ではない。
 手塚としては意地を張っているわけではない。
 むしろ、意地を張っているのは向こうであるはずなのだ。不二から反応があれば自分はちゃんと返事をするだろう。
 中学の時のように。
 そういう関係だった。身体まで重ねた相手を友人と呼ぶのは何か違う気がするし、かと言って恋人かというと、決してそういうことでもなかった。アメリカという、日本よりは比較的開放的な国で同性愛というものを間近に見ても、自分と不二のそれとは多少違う気がした。
 あれは恋愛ではなかった。
 何か行動を起こすのはいつも不二で、自分はそれに応じるだけ。「好きだ」と言うのも不二で、それを受け入れることしかしなかった。
 自分から何かをしたことはほとんどない。
 与えるだけの向こうと与えられるだけの自分。
 それは間違っているだろう、とぼんやりと思いながら、結局その間違いを正せないまま、離れてしまった。

 二年半の時間は考えるには十分な時間だった。まったく未知の世界で、多くの人ともふれあい、精神的にも鍛えられた。
 だから今ならなんとなく理解できる。

 何が間違っていたのか。
 自分は不二に何を望まれていたのか。
 不二は何を怖がっていたのか。

 ……自分は不二に何をしてやれたのか。
 してやるべきだったのか。

(…………だが、いまさらだ)

 自分から連絡をすればいいのだが、それは躊躇われる。
 不二が連絡をしてこないのは、もう不二は自分無しでも大丈夫なんじゃないか。
 そういう恐れが自分にはある。
 手塚はそれが「怖い」のだと認めた。
 一緒にいたときに答えを出さなかった、自分も悪いのだ。

 だから。
 不二が連絡を取ろうと思うまで、手塚は待つ。
 ひょっとしたら一生かかってこないかもしれないが、それでも待つ。
 不二が自分から連絡を取ろうと思えるまで。
 それが多分、これ以上不二を困らせない、唯一の手段なのだ。

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 自分の誕生日だと言うのなら。
 今日ぐらい期待したって、罰は当たらないだろう。

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 ……そんな思考を繰り広げていたとき。
 自分が思ったとおりに、電話が受信音を鳴らした。
「……!」
 一瞬、手が止まる。
 電話が鳴って欲しい、と考えていた矢先にこれだ。思わず胸が跳ねた。
 しかも時刻は午後三時。
 普通なら電話などありえない時間だ。

 衝撃を抑えきれないまま、手塚は電話に出た。
「……Hello……」
「……もしもし…………えと、手塚?」
 英語で応えたが、聞こえてきたのは日本語だった。
 中性的な声。
 二年前とそんなに変わらない。
「……おまえ、不二か……!?」
 驚きのあまり、手塚は思わず声を大きくした。

「う、うん……えーと、久しぶり。元気?」
「久しぶりとかそういう問題ではないだろう!! こっちの身にもなってみろ!!」
 思わず怒鳴った。久々の電話でいきなり罵声を浴びせるのもどうかという気はしたが、感情が抑えきれなかった。
「どならないでよー。だってこっちもなんか心の整理とかいろいろもうほんとに大変だったんだから……って手塚、ひょっとして、僕のこと心配してた?」
「当たり前だ」
 即答すると、不二はちょっと面食らったようで、言葉に詰まっていた。
「……そっか……うん、ごめん。悪いと思ってる」
 不二の謝罪の言葉を聞くと、昂ぶっていた感情も落ち着いた。
 何より。
 半分以上諦めていた電話を、不二はかけてきてくれた。
 そのことは本来、怒鳴るようなことではない。むしろ逆だ。

「……まあいい。どうしたんだ、今日は」
 尋ねてはみたものの、答えは聞かなくとも解っていた。
「あ……あのさ、誕生日だと思って。お誕生日おめでとう、手塚」
 予想される答えだった。
 だが、それならば、指摘しておかなければならない問題がある。
「……確かにそうだが。お前、こっちとどれだけ時差があるか知っているか?」
 西海岸が午前三時、ということは日本では午後八時か。確かに向こうが電話してくるにはよい時間だろうが。
「知ってたけどさ。こっちにも都合があるんだよ。お互い10月7日に電話しないと意味ないし……それに君ちゃんと起きてたじゃん」
「……たまたまだ。まったく、俺が寝ていたらどうするつもりだったんだ……」
「起きるまでかけるよ」
「……」
 天才の自己中な性格は相変わらずのようだった。

 だが、二年半ぶりの電話だ。言いたいことはそれだけではないだろう。
「……用事は、それだけなのか?」
「まぁ、誕生日なんてのは口実だけど。でもきっかけとしてはいいかなって……」
「……言いたいことがあるなら、聞くが」
「うん……」
 不二が長く息を吐く。

「お別れの時……君は僕がいなくなっても平気だろうけど、僕は君がいなくなったら死ぬんだと思ってた」
 突然会話が飛躍する不二の話し方のくせも、むしろ懐かしかった。
 律儀にそれに突っ込みを入れる。
「……人間は丈夫なものだ。そんなことでは死なないだろう」
「そーなんだよね。結局二年半も生きちゃったよ。所詮僕の中で君の存在ってそんなもんでしかなかったのかなーとちょっと愕然としたんだけど……なんかずっといろいろ考えてたら、中学の時のこと、本当はこうだったのかなって思ったことがあって」
「それは奇遇だな。俺もだ」
 そう伝えると、不二の声が少し柔らかくなった。
「そうなんだ……それを伝えたかったんだよね」
「……ああ。俺も先に、聞きたいことがあった」
「ん? 何?」

 一つ間をとってから、手塚は単刀直入に聞いた。
「どうして、怒らなかったんだ?」
「え」
 それだけでは不二には伝わらなかったらしい。
 もう一度、繰り返して説明する。
「……俺が留学すると決めたとき、お前は結局何も言わなかっただろう。『離れたら死ぬ』とまで思い込んでいたくせに。どうしてだ?」
 ストレートに疑問をぶつける。
 思っていることをはっきり言うようになったのはアメリカの風土のおかげだ。
 不二は少し黙っていたが、やがてゆっくりと声を出した。
「……君はいつか、僕の前からいなくなるって解ってたから」
「…………」

「君の見る世界と僕の見る世界は違うんだ。中学で運よく重なっただけで、だからいつかきっと解れなきゃならない。……それが留学のときだと思った。だから僕に何も言うことなんかなかったんだ」
 吐き出すように一気に告げられる。
「……それにさ、僕が泣いてすがったりしたら君は留学を止めてくれた?」
 その質問に、手塚は少し息を呑んだ。
「そんなはずないだろう? 僕が何を言ったって、君が聞き入れてくれるはずないじゃないか。……無駄なことは嫌いなんだ」
「……泣いて縋られれば、まだマシだった」
 手塚はそう切り返した。
 それも正直な気持ちだった。
 中学の間の不二の自分に対する態度からして、そうであったほうがまだわかりやすかった。説得の余地もあった。
 だが不二はあのとき、説得すら拒んでいた。
 すでに何かを諦めていた。

 思いがけない返答だったのか、不二は電話の向こうでしばし黙り込んだ。
「……あのさ君、なんかキャラ変わってない?」
 訝しげに尋ねられる。
「こっちだとそれぐらいはっきり言わないとやってられんぞ」
「それはいいけどさ……なんか調子狂うなあ。そういう返答する手塚……まあ、だからそういうわけなの全部。君と僕の関係なんてたまたま一緒の時間が重なっただけの偶然の産物だった。……だから物理的な距離が離れたら、それで終わりなんだ。連絡を取る必要なんかない。だってもう終わったんだから」
「……相変わらずだな」
 不二の思考回路は極端だ。しかも飛躍が多い。
 そんなに簡単に、つながりが消えるはずがないというのに。
「……人間関係など最初は偶然でも、それを維持するのは自分の努力だろう。おまえはその努力を放棄していただけだ」
 戒めるつもりだったので、多少きつく言ってやると、不二は再び受話器の向こうで黙り込んだ。
「……そう言われると返す言葉ないけど……」

「考えてみれば、もともとそうなんだな、お前は。一見人当たりが良い割には人間関係には淡白なんだ。というか本当のところ他人なんかどうでもいいんだろう」
「………………うわ酷。そこまで言う?」
 「酷い」という割に、不二の口調は妙に朗らかだった。くすくすと笑っている気さえした。
「言わせてもらう」
 手塚がきっぱり答えると、不二は不意に声を硬くした。
「……そうだね。あんまりさ、他人って好きじゃないんだよね。付き合いだって面倒だし」
 写真が趣味だと言う不二の被写体は、決まって動植物や風景ばかりであったことが脳裏に浮かんだ。
「……でもさ、そんな僕が、君にだけは興味を持った。これって凄いことだと思わない?」

 不二のその言葉を手塚は否定した。
「…………違うだろう」
「……え?」

 不二が電話をかけてきたなら、言わなければいけないことがあった。
 それで不二がどう思ったとしても、告げてやらなければならなかった。

「お前は俺に興味を持ったんじゃないんだ。俺のことを好きだったわけでもない」

「…………」
 不二の気配がまた、硬くなる。

「……お前は、お前の中にいた理想の俺を好きだったんだ」

 声に出して宣告する。
 一緒にいる間に、このことに気付いていれば、もっと別の道もあったのかもしれない。

 もともと、不二は生身の自分なんか見ていなかった。
 不二の中には自分の世界があって、その世界の中での理想の存在と手塚が結びついただけだ。
 理想の存在であるそれに不二は興味を抱いていただけで、現実の自分なんかはどうでもよかったのだろう。

 だから間違っていた。
 不二が生身の自分に望んでいることなんて何もなかった。
 逆に不二は手塚が生身の人間であることに気付くのを恐れていた。

 だから。
 不二は、手塚から何かを与えられることを拒んだ。
 自分からひたすら与えるだけだった。

 それは愛情というより、一種の信仰で。

 これを指摘しなければ、不二は一生、手塚という現実の存在を見ない。
 見ようとはしない。

 不二はしばらく絶句していた。
 やがて、軽く笑った声が聞こえた。
「そうだね……うん、きっとそうだった」
 手塚の言葉を素直に受け入れた。
「あの頃の僕は、僕自身のために、君を好きになってた」

 「君が神様みたいに見えていた」と不二は続けた。
「神様への愛情は見かえりを求めちゃいけないんだ。ひたすら神様だけを愛する。……一方的で独善的な感情だよ。それを君に押し付けてた」
「…………」
 現実に存在しない神様だから一方通行でも信仰できる。
 現実の存在を信仰すれば、きっと、相手に重荷を背負わせるだけで駄目になる。
「僕の感情はいろんな意味で君には重荷だって解ってた。だけど止められなかった。……これが自己満足だって言わなくて何だと言うんだい?」

 自分という狭い世界。その中で得る充足。
 ……そんな在り方も、間違いではないのだろうけれども。

「だから僕は、僕の中で作り上げた理想の君で満足していた。それが壊れるのが怖かった。怖かったから君自身を見なかった」

 そんな感情もその感情に基づいた人間関係も。
 まともじゃない。

「現実の君から目を背けてた。ずるかったんだ。ほんとうの君のことなんかちっとも考えてなかった。そう思った。だから、それだけ謝りたかったんだ……ごめん」
 吐き出すようにそこまで告げて、不二は一息ついた。
 息が荒い。一気に言うだけ言ってしまったようだった。

 不二の言葉が途切れた瞬間を見計らって、手塚は語り始めた。

「……じゃあ、俺からも言っておく」
「……なに?」
「ずるいのはこっちも同じだった」
 不二はそのことを認めた。
 ならば、自分も認め返さなければならない。
「……お前の信仰を無くすのが怖かった。生身の俺を見たらお前は幻滅するんじゃないかと思っていた。お前がそれで自己満足でもそれで満ち足りているのなら、それでいいんじゃないかと思っていた」
 与えられるものに何か与え返したら、それはもう神ではない。
 ただの等身大の人間だ。
「依存されているのが嬉しかった。お前の目が俺を……たとえ幻想の俺でも、見なくなるのが、怖かった」
 だから、おぼろげに解っていても、それを指摘できなかった。
 指摘すれば不二を失うのが解っていた。

「……何、それ」
 不二は驚いたような声で返してきた。
「だからずるかったのは俺も同じだと言っている。お前の歪んだ愛情の形に甘えていたのはこっちもだ」
 顔が見えないということと、二年半という時間が、いろんなしがらみを取り払ってくれていた。
「いや、だから、すごい爆弾発言聞いた気がするんだけど……整理させてね……つまり君は、僕に嫌われたくなかったってこと?」
「そういうことになるだろうな」
「……中学のときから?」
「ああ」
「……え……」

 受話器の向こうの不二が押し黙った。
「……どうした」
「……ごめん……ちょっとマジに嬉しい……凄い今顔赤くなってるうわどーしよー」
「そうなのか?」
 照れているらしい不二の声がヤケに可愛らしかった。
「だ、だって絶対君いやいや付き合ってくれてるもんだとばかり思ってた……だから留学の話だって君と別れられるいい機会だって……」
「俺と別れたかったのか? お前は」
「……その方が君のためだと思った」
「勝手なことを言うな」
 不二からの反論はなかった。
 代わりに、軽い笑い声が聞こえた。
「……あー……ほんと君、キャラ変わってるよ……もう」

「お互い、言いたいことは同じだったようだが。ならば、お前はこれからどうしたいんだ?」
「うーん……そうだね」
 言いたいことを言ってしまったら、すっきりしたらしい。
 不二はやけに明るくこういった。
「やっぱり、まだ終わりになんかしたくないんだ……今度日本に帰ってきたら、ちゃんと会おうよ。ほんと、ちゃんとね」
 それは手塚の希望とも一致していた。
「望むところだ」
「話したいことはたくさんあるんだ」
「……お前、テニスは続けているのか?」
「うーん、まあそれなりに……今は受験勉強中だけどね」
「なんだ、外部に行くのか?」
「せっかくだしさ、ちょっと高いとこ頑張ってみようかなって」
 不二が告げた大学名は、先輩の通うところと同じだった。

 そして、不二は長い溜息と共にこう言った。
「……君がいなくなってもさ、二年半、ちゃんと生きられたよ」
「そうか」
「もう君に依存しなくても大丈夫だから……今度こそ、ちゃんと会いたい」
 念を押す不二に、もちろんだ、と手塚は硬く約束した。

「……じゃあ、うん。そろそろ切るよ」
「……ああ。お前が無精なのはいやというほど解ったから……もう少し頻繁に連絡くれないか」
「あはは、うん、ま、気が向いたらね。ばいばい」
 そう言って電話は切れた。

 長い時間話していたはずなのに、時計を見るとさほど時間はたっていなかった。
 なんだか夢のような気分だった。
 今、不二は何を言ったのだろう。
 自分は何を言ったのだろう。
 だが、満足はしていた。ひとまず、これでだらだらと答えもなく続けていたものは終わったのだ。
 そして新しい何かが始まる。
 ……はじまるはずだ。

 その時、再度電話がなった。
 また不二か、とも思ったが、電話に出ると別の人物だった。中学時代の先輩だ。いつも落ち着いた印象のある人なのにいやに慌てていた。
 だが、慌てているはずだった。
 その内容を聞いて手塚の顔からさっと血の気が引いた。
「……不二が……」
 信じられる話ではなかった。
 だって、さっきまで、あんなに元気そうだったのに。
 普通に話していたというのに。
「事故、に……?」

 次に日本に帰ってきたら、ちゃんと会おうって約束したところなのに。

            :*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*:

 日本時間10月7日午後8時前。
 予備校帰りの不二は、交差点で信号無視の車に突っ込まれて交通事故にあったのだと言う。
 車が急ブレーキを踏んだので衝撃は比較的少なく、とくに後遺症の残るような外傷はない。だが、飛ばされたときに頭をうったのか意識が戻らず、予断を許さない状況だそうだ。
 最悪このまま目覚めないかもしれない、と。
(……そんな)

 日本時間午後8時前に事故にあった、と聞いた。
 そして西海岸の自分のところに電話をかけてきたのが、午前3時過ぎ。
 時差が17時間あることを考えると、ほぼ同時刻だ。
 つまり、不二はちょうど事故にあい救急車で運ばれている最中で、電話などかけてきたはずがない。
(ありえない)
 先ほどのは、間違いなく不二からの電話だったはずだ。
 そう言えば、何故こんな時間に目が覚めたのか。所謂虫の知らせというヤツではないのか。
(まさか……)
 これで、本当にお別れだから?
 離れているといってもお互いいる場所は知っている。連絡をとろうと思えばすぐにとれる。一生会えない、というわけではない。
 だがそんな甘えた状況じゃなくて、本当に、二度と会えないのか?
「……あの馬鹿者……!」
 手塚は早速、旅支度を始めた。

             :*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*:

「……いやあのときは、マジでもう死ぬと思ったんだけど」
「………………」
「なんかほんとに人間って思ったより丈夫だね……あははは」

 日本時間10月8日午後8時。
 上半身を起こしている不二のベッドサイドには、手塚がいた。
 先輩からの電話を受けて、思いつく限りの手段を使って最短で日本まで帰ってきた。
 意識不明の重態という連絡を聞いて、いてもたってもいられなかった。

 だが病室に飛び込んできた手塚を待っていたのは、二年前と変わらない笑顔の不二だった。
 身長も伸びて多少大人びた気はするが、線の細い印象は相変わらずだ。むしろ体格差は中学のときより広がった気さえする。
 頭に巻いた包帯と頬の大きな絆創膏が気になったが、それ以外はすっかり元気そうだった。

 ……つい一時間ぐらい前に目が覚めて、とベッドの横で不二の母親は涙を拭った。それで一般病棟に移ってきたらしい。
 一時間前といえば、ちょうど、手塚が成田空港に降り立った辺りだ。

 不二の母親は気を利かせたのか、ちょっと外で休憩してくると言って病室から出て行った。
 そんなわけで、九死に一生を得た不二と、慌てて日本に戻ってきたのに気まずい手塚だけが病室に取り残された。
「……えーと。久しぶり、手塚」
「何か言うことはないのか」
「連絡はしたって聞いたけど、まさかほんとに来るとは思わなかった」
「俺も自分の行動力に驚いている」
「実は昨日、事故って頭打って、『ああこのまま手塚に会えずに死ぬのかなー』とか後悔しまくってたら、なんか君と電話で話す夢見たんだけど……そりゃ長々となんか割といいたいことずばずばと」
「……それは正夢だ」
「ああ、それは心霊現象だね……人間死ぬ気になればなんでもできるってことかな……」
 不二がからかう様な口調だったので、手塚のこめかみがピクリと波打った。
「……本気で心配したんだ、俺は……」
「……ごめん」
 手塚の神妙な様子に、不二もさすがに声のトーンを落とした。
 しゅんと項垂れて下を向く。

 そんな不二の肩に手を廻すと、手塚は不二の身体をぐっと抱きしめた。
「……! て、てづかっ!?」
「……無事でよかった」
「あ、あのー……やっぱり君、アメリカ行って性格変わってる……?」
「ほっとけ。文句あるのか?」
「……ない」

「……一日遅れたけど、お誕生日おめでとう、手塚。」
「ああ」
「僕に会えたことが誕生日プレゼントじゃ、だめ?」
「十分だ」
 正直にそう答えてやると、不二は面白そうにくすくすと笑った。


遅ればせながら手塚誕生日でした。
とか言いながら不二に大変優しいお話ですが。あれれれ? 完全に塚不二……
……というかひさびさにこういうぐだぐだ話を好き放題書きたかったんです……ごめんなさい……。
まあ不二の幸せが手塚の幸せ……だったら、いいなあ……(遠い目)

未来話で手塚留学中で電話、というシチュエーションは正直すげー好きな同人誌であったもので(正直に告白。塚不二ですが……)
いつか自分でも書きたいなあ……と思ってたものです。
もちろんシチュだけで内容もオチも別ですけどね。
ただ手塚はアメリカに行くと自己防衛機能が働いて攻めにジョブチェンジすると思う……アメリカナイズされて自分に正直な手塚……。
そんな手塚も不二子はかっこいいとか思ってるんだよ! バカップルめ!!

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