World's End 6

 手塚と始めて出会ったのは、小学生の頃、ジュニア大会の決勝だった。
 それまでにもう天才小学生の噂は聞いていた。だが不二には負けるつもりはなかった。
 実物と実際に当たってみるまで、その本当の凄さは実感できなかった。
 自分が完敗した、と認めた相手は手塚が初めてだった。

 それ以来ずっと気になっていた。テニスをするときは常に彼の姿が頭の中にあった。彼に追いつきたい、勝ちたい一心で続けていた。
 中学になって青学に入り、手塚も同学年でテニス部にいることを聞いた。クラスはだいぶ離れていたので会えなかったが、噂はよく耳にした。テニス部に入ろうかとは思っていたが、ここ数年都大会止まりの青学テニス部にさほどの興味はなかった。それに最初は先輩達が威張っていて嫌な感じだったので躊躇っていたのだ。手塚が一騒動を起こしたことを聞いた後で入部する事を決めた。手塚ならば何か面白い事をしてくれそうだと思ったからだ。

 初めてテニス部の部室にやってきたとき、ちょうどそこには手塚がいた。
 中学に入ってから、声をかけるのは初めてだった。
 その時の事はありありと記憶に残っている。目を閉じれば簡単に脳裏に浮かぶ。

 自分はあの時から、ずっと手塚のことを覚えていた。手塚のテニスに勝つことを目標にしてきた。
 ライバルとして、僅かな緊張を持ちながら、にこやかな笑顔で話しかけた。

 ――こんにちは、手塚君だよね。今日からテニス部に入るんだけど……

 だがそう言った自分に、手塚は怪訝そうな顔を見せた。
 そしてこう言った。

 ――ここは男子テニス部の部室だ。女テニの部室は向こうだが……

 その言葉で何かがプツリと切れた。
 性別を間違われたことも激しく不快だった。
 だが、それ以上に、覚えられていなかったことにショックを受けた。

 つまり、彼の中では、負かした相手など覚える必要はないわけだ、と。

 ――男だよ、僕は。

 声が低くなるをの抑えることは出来なかった。
 揉め事を起こしてはまずいのであまり目立たないつもりでいたが、そうも言ってられなかった。
 裏切られたと思ったショックは、瞬時に怒りに変わっていた。

 ――そーか……手塚君、僕のこと、覚えてないんだ……。

 その後、怒りに任せて勢いで手塚に試合を挑んだ。顧問と部長がいなかったが副部長が試合を許可してくれた。
 結局、勝てはしなかった。
 あれだけ練習を続けたのに結局勝てなかったことも悔しかったが、何よりも。
 手塚が自分のことを覚ていなかったことが悔しくてたまらなかった。

(……つまり割と最初から、僕は手塚が嫌いだったわけだ)
 そう結論が出た。

 自室のベッドの上に横になりながら、不二は天井を仰いでいた。
 染み一つ無い天井にいろんな顔が浮かぶ。

(もともと、テニスが好きって言うより、単純に強い自分が好きだった気もするし)
 始めたのは幼稚園の時だ。裕太と一緒だった。すぐに二人とも才能を認められた。とくに自分にはコーチも舌を巻いていた。両親や姉といった大人達はテニスの上手い自分を誉めてくれたし、裕太は尊敬してくれていたし、自分だって年上の子供を簡単に倒せるのは気持ちよかった。
 どんどん強くなっていく自分が楽しかった。
 初めて同学年の相手である手塚に負けた時は悔しかったが、それでも、手塚を目標にすることでテニスを続ける事が出来た。

 手塚は自分が始めて認めた相手だった。
 それなのに、彼は自分のことを認めてはいなかった。

 一年生の最初のうちはがむしゃらに練習に明け暮れた事もある。手塚に再リベンジを果たすために。だが、何度手塚と試合しても勝てないうちに、どうしようもない才能の差、と言うものが見えるようになってきた。離れているうちは解らなかったが一緒に練習しているうちにはっきりと見えてきた。

 自分がどんなに強くなったって、彼はずっと先を行っていて。
 そして彼は、決して後ろを振り向く事などしないのだ、と。

(それに今、手塚が僕のこと気にしてるのは、僕が青学じゃ手塚の次に強いからで)
 多分、自分よりももっと手塚の才能に近い人間が現れたら、自分の事などますます見なくなるだろう。

 そのうち、裕太も自分に反感を抱くようになった。
 強さの限界が見えた上に、強くなることに積極的な意味を見出せなくなった。
 ならテニスを続ける意味など無いに等しい。
(……だって僕は、テニスが好きな訳じゃないんだから)

 ……じゃあ、何が好きだって言うのだ?

「……あーもー……」
 意味の無い言葉を口にして、ごろりと寝返りをうった。

 手塚にあんなことをしたら、それで全てが終わって楽になると思っていたが。
 結局、そんな簡単なものじゃなかったらしい。
 以前よりも頭痛の種ばかり増えたのはいったいどういうことだろう。

 だが、一つだけ、解った事があった。
 ……本当は、手塚に理解して欲しかった訳じゃない。

 手塚の言葉が脳裏に蘇る。

 ――お前の方が……何か無理しているように、見えたから……

 普段はとことん鈍感なのに、肝心なところだけ手塚はよく解っていた。
 自分にも理解しきれていない「自分」を、他人に理解されているなんて。
 そしてそれが決して自分を見てはくれない手塚だったなんて。
 それが不二には恐かった。

 手塚が自分のことを理解しそうだったから、いっそ理解できない行動に出ようと思った。
 いつか手塚が自分を見捨てるならば、その前に、自分でけじめをつけようと思った。

(……そうか)
 ならば、自分の本当の望みは、彼に理解して欲しかった訳ではない。
 認めて欲しかったのだ、と。
 ふとそう思った。

 自分で出した結論に、思わず横になったまま目を開けた。
 解ってみたら、つまらないことだった。

 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
 家に他に人はいない。母親は近所の奥さんと夕食会があると夕方に出かけたし、姉はまだ仕事だ。裕太は学校の寮だし、家にいるのは自分だけだ。
 無視しようかと思っていた。家の中に電気はついていない。自分の部屋も、もう7時をだいぶまわったのに電気をつけていなかった。留守だと思われてそのうち帰るはずだ。
 だが、チャイムはしつこかった。何度も何度も繰り返し鳴らされている。
 しつこいので様子だけ伺うことにした。
 下に降りて、玄関の外の人物を確認する。

 玄関のドアの前には、見慣れた仏頂面が息を切らしてベルを押しつづけていた。

 心臓が止まるかと思った。

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 大急ぎで不二の家まで来た手塚は、家に何も灯りが点いていないのを訝しく思った。
 車も無い。無人のようだった。。

(あいつ……本気で)
 まさか、と思うが、何せ不二の家族だ。常識は通用しないと思っておいていい。
 かなりの資産家だし、もしかしたら一日で引越しぐらいやってのけるかもしれない。
 とにかく中に誰かいることに賭けて、ベルを押しつづけた。

 しかし、何度やっても、反応はなかった。
 気持ちだけが焦る。
 名前を叫びだしたい気持ちをなんとか抑えて、祈るような気持ちで、一際強くベルを押した。

 その音と同時に、玄関の扉が開いた。
 突然の事だったので、手塚は呆然としてそちらを見た。
 鳴りつづけていたベルがどんどん小さくなっていく。それと同時に、焦る気持ちも急激に落ち着いていった。

 私服のままの不二が、不機嫌そうな細い目で暗い闇の中から出てきた。

「……不二」
 出てきて欲しいと手塚は思っていた。
 今、この場所で会えなければ、二度と不二と会う事は出来ないだろうと思った。

 だが、本当に出てくると、何を言いたかったのか上手く言葉に出来なかった。

 先に沈黙に負けて喋り出したのは、不二の方だった。
「……何しに来たんだよ」
 視線は下を向いている。自分と顔を合わすつもりはないらしい。わずかに見える口元に笑みはない。

 たった一日会っていないだけなのに、まるで一年ほど離れていたかのようだった。

 自分が今まで知っている不二とは別人に見えた。
「二度と会わないって決めたのに、どうして君のほうから来るんだよ」
 言葉はやや震えて、苛立ちが含まれている。
 身体の横で握り締められた拳は、血の気を失っていた。
「……それは」
 不二の質問になんと言おうか迷ってると、持ってきたラケットを思い出した。

 そうだ。
 そのために、やって来たのだ。

「……テニスをしに来た」

 手塚の堂々とした言葉に、不二はしばらく、返事をしなかった。
 やがて、馬鹿にしたような声でこれだけ返した。

「……はあ?」

 そんな不二には構わず、手塚は続けた。
「今からならまだナイターの施設が空いているはずだ。最近自主練ばかりで他人と打ち合ってなかった」
「………………あのね」
 何か言いたそうな不二の言葉を遮って、言いたい事だけ言ってしまった。
「付き合ってくれ」

 不二は手塚の申し出に、しばらく動きを止めていた。
 やがて脱力したように玄関に座り込んだ。
「………………だからさ、何でそーなるのさ……」
「何を言う。これでも必死で自分で考えた結論だ。お前が俺にいったい何をして欲しかったのか」
「……あー……えーとね、そーじゃなくて……」
 不二はぐしゃぐしゃと両手で髪をかき回した。

「……あのね、君、昨日僕に何されたか覚えてるの?」
 馬鹿にしたような不二の言葉が僅かに気になって、顔をしかめながら答えた
「……当たり前だ。忘れられる訳があるか……あ、あんなこと」
 口にすると生々しく感触が蘇ってくるような気がした。身を固くしながら答える。
「だったらさ、あんな事された相手と普通一緒にいたいと思う?」
「……それは、確かに」
「はっきり言うけど君が被害者なんだよ、犯罪の。男同士だと強姦罪にはならないけどさ。あんなことされてよく会いに来れるね? 恐くなかったの? また同じことされるって思わなかったの? そうじゃなくてもさ、怒るでしょ普通。僕があんなことされたら二度と社会復帰できないようにしてやるよ。君だって僕のこと一発ぐらい殴りたいと思わないの?」
「……なるほど」
 確かに、不二の言うことが正論だと思った手塚は、素直に納得して首を縦に振った。
 だが、不二は再び驚いたように目をまじまじと見開いて顔を上げた。
「だからそこでどーして納得しちゃうんだよ。そういう風に思わなかったの? 僕のことなんか嫌いになったんじゃないの? ……君が二度と僕のことなんか見たくないだろう、と思ったから、二度と会わないって決めたのに……それで携帯の電話番号とメルアドはすぐに変えたし、家の電話は君のだけ着信拒否にしたのに……」
 不二の言葉に、手塚は少し肩を落とした。
「……だから、お前の考えていることは解らんというのだ」
 本気で『消える』を実行しようとしたらしい。
「転校手続きだって進んでるよ……君がこのまま家に来なかったら、何も言わず消えてあげたのに……そのつもりだったのに」
 手塚は眉間の皺を深くした。
 再び下を向く不二を細めた瞳で見下ろした。
「……確かに、あんな犯罪行為、簡単に許せるものではないな。それはお前がいなくなったからってどうなるものでもなかろう」
 痛いところを突かれたのか、不二はぐっと口を噤んだ。
「……それに、お前は泣いて謝っていた。反省してるのだろう」
 そう言うと、不二ははっと顔を上げた。
「……やっぱり解らないよ。どーしてあんなことした僕を許そうと思うのか」
「……俺だって解らん」
 手塚は妙に偉そうに言った。
「だが、お前だって、何故あんなことをしたのか解らんのだろう」
「…………そうだけど」
「俺だってお前の気持ちは解らん。とりあえず納得はしてやるが。だが、解らなくてもよいのだと、菊丸に教えられた」
「英二が?」
 手塚は首を縦に振った。
「解るよりも、思いやるという、その気持ちが大切なのではないかと」
「…………」
「だから、お前が何を望んでいるのか、お前のことを思い出しながら、考えた」

 不二は、饒舌に語る手塚をぼんやりとした顔で見つづけていた。
「俺は、お前を追い詰めた俺にも多少は負があったと思っている。そしてお前も追い込まれるまで苦しんでいた」
 甘い裁きだと、手塚は自分でも思っていた。
 だが、お互いに楽になるには、これが一番だと、そう信じ込んでいた。

「お互い、最近まともにやっていないしな。とにかく思いっきり身体を動かせば、少しは気分も晴れるはずだ」
 手塚はそう言うと、座り込んでいる不二にバッグを持っていないほうの手を差し出した。
「行くぞ」

「馬鹿じゃないの、君」
 不二は目を細めて、口元だけで嘲るように笑った。
「なんであんなことされた相手にそんなこと言えるのさ」
「……俺も、自分でそう思っている」
 手塚は大きく溜息をついた。自分を強姦したこんなことを言う自分が信じられないのだが。
「だが、お前がこんなことでいなくなるのは……困る」

 そう言うと、不二の笑いが、しだいに、顔全体に広がっていった。
「……あはは」
 声を立ててひとしきり笑うと、ゆっくりと、右腕を持ち上げて、差し出された手塚の手をとった。

「解った。……付き合うよ」

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 高架下のコートで、久々に手塚とテニスをした。
 軽くラリーをして、その後ワンセットマッチだけ戦った。
 結果は不二の惨敗だった。

 コートにごろりと横になりながら、不二は額に流れる汗を拭った。
「やっぱり、勝てないなあ……手塚練習してないから鈍ってるかと思ったのに」
 だが、心は奇妙に満足していた。
 久々に楽しい試合だった。

「……行儀の悪いまねをするな」
 手塚がこっちのコートに入ってきた。不二の隣に来て、立ちながら見下ろしている。
「それと、鈍っているのはお前もだろう。ここ数日、まともに練習していないくせに」
「……そうだったね。でも君、昨日の事もあるのに……」
「……昨日の事?」
 首を傾げた手塚は、ようやくその言葉の意味するものに思い当たったみたいだった。
 ラケットを不二に突きつけて短く言う。
「それは言うな!!」
「……はいはい」
 笑顔で不二は答えた。

「ねー手塚」
 寝転んだまま呼びかけると、手塚は答えてくれた。
 それだけのことが妙に嬉しかった。
「なんだ」
「連れてきてくれてありがとう。僕、やっぱり、テニス好きかも」
「……好きじゃない、とでも思ってたのか?」
「……うん、ちょっと」
「……お前がテニスを好きなのは当然だろう。プレイしている時のお前が一番表情が解りやすい」
「……そっか」
 手塚に言われると、なんだか妙に信憑性があった。

 上半身を起こして、ゆっくりと起き上がった。
「これで君の何勝かなあ……中学入って初めてやった時から、君にはずっと勝てないんだよね……」
 遠い目をしながら独り言のつもりで呟いた。だが、手塚はそれにも反応を返した。
「そうだな、特に一年の最初のお前はよく覚えている」
「……そう?」
「あんな道場破りみたいな入部をしてきたのはお前だけだ。一生忘れない気がする」
「手塚僕のこと、女の子とだと思ってたしねー」
 笑い話のつもりでその話を持ち出したのだが、手塚は言葉を詰まらせた。眉間の皺が深くなっている。
「……それは、本当に反省してる。悪かった」
 あまりに真面目に手塚が謝るので、不二の方が拍子抜けした。
「……いや、いいよもう。僕だって謝らなきゃならない事出来ちゃったし」
 そんなことでも覚えられているだけでもかなり嬉しい不二だった。

 だが、手塚は、まだ顔を暗くしたままだった。
「……隠岐さんも、確かこの話を先輩から聞いたって言っていたからな……」
 不二はその言葉に、眉を顰めた。
「隠岐、って?」
「ああ、お前は知らないか。生徒会の一年生書記にな、隠岐元副部長の妹さんがいるんだ。本屋で偶然会った時にそう言われてな。先輩からテニス部のことについてはいろいろと聞いてるし大変なのも知ってるから、生徒会役員一同出来る限り協力しますって言ってくれたんだが……」
 隠岐副部長。それは、二人が一年生の時のテニス部副部長だ。
「……そう、だったの?」

 ああ、じゃあ。
 一緒に帰ったり、ましてや付き合ってるなんて、ただの噂でしかなかったのだ。
 信じた自分が馬鹿みたいに思えてきた。
 思わず笑いがこみ上げてくる。

「あははは……そうだったのか。妹オチか」
 急に笑い始めた不二に、手塚はびくりと身を強張らせた。
「ふ、不二……」
「なーんだ……てっきり、手塚がその子と付き合ってるんだと思ってたよ」
 不二がそう言うと、手塚ははあ? と難しげな顔になった。
「……何故そうなる」
「だって君、普段女の子と話さないじゃん。そんな君が女の子と歩いてるだけで、そう言う噂になるの」
「そういうものか」
「そういうものなの」
「解った。今後気をつける」
 本気で困った顔でそう言う手塚に、不二はさらに笑った。
「あーやっぱり、君が女の子と付き合うはずなんかないと思ってたんだけど……」
「……当たり前だ。今は興味が無い。義理や興味で付き合っても面倒なだけだ」
「うん、やっぱり、そう言ってこそ君だよー」
 胸の奥から沸きあがってくる喜びを隠さずに不二は言った。
「妙に機嫌がよくなったな、お前」
 手塚はそんな不二に、不思議そうな視線を向けた。
「やっぱり、ちゃんと話し合うのって大事だねー」
「だから、どうしていきなりそんなに嬉しそうなんだ」
「えー? 君には関係ないよ」
 手塚は少し黙り込んだ。考えているようだった。
「……俺が、隠岐さんと付き合うとお前に困ることでもあったのか」
「あー……」
「つまり、……なんというか……そうか、嫉妬……ということなのか?」
「…………」
 不二は笑い顔を硬直させたまま、手塚の方をじっと見ていた。

 ……だから。
 自分の気持ちは伝わったはずなのに、どこまで鈍いのだろうかこの人は。
 いや、この場合、手塚にしてみれば肝心な部分だけは鋭いといった方がいいかもしれない。

「……手塚は結局誰とも付き合って無かったんだし」
 気を取り直してそう思うことにした。
 立ち上がって、腰の埃を払い、手塚と視線を合わせる。
「……それに、僕の告白に、OKしてくれたし。これから晴れて恋人同士だね」
 そう言った不二の言葉を聞いて、手塚はことさら訝しげに眉を寄せた。
 不機嫌そうな様子がありありと透けて見えた。
「……ちょっと待て。何故、俺とお前が付き合うとか、そう言う結論になるんだ?」

 不可解そうな手塚の表情に、不二の方が不思議そうに首を捻った。
「さっき言ったじゃん。『付き合ってくれ』って」
「それはテニスのことだ」
 はっきりと言い切られた。

 不二はしばらく絶句していたが、なおも追いすがるように言った。
「あのさ、普通、告白してそれ受け入れるのって、付き合いますよってことだろ?」
「お前は『付き合いたい』とは言ってないだろう。告白は聞いたが。お前の俺への気持ちはちゃんと受け入れるが、それでどうして恋人同士になるならないの話になるんだ」

 堂々と偉そうに言う手塚に、不二はどっと肩を落とした。思わず、手からラケットが滑り落ちそうになった。
「……何それ」
 何か激しく、肩透かしを食らった気分になった。
「何って……だから、そういうことだ」
「ああうん……やっぱり、君の考えてることってよく解らないよ」
「俺もお前の考えなどさっぱりだ」
 手塚は一呼吸置いてから、胸を張って言った。
「そういうものだろう」
 手塚にそう言われると、妙に説得力があった。
 ごまかされたような気はしたが、これ以上、追及しても無駄のような気がした。

 結局、理解なんか出来ないけど。
 手塚がこうやってわざわざ自分のことを気にして何かしてくれたという、そのことが嬉しかった。

          :*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*:

 高架下のコートから帰る頃には、九時をすでにかなり回っていた。
 とりとめもない雑談に花を咲かせている時間は、不二にとって妙に楽しかった。
 こんな時間、最近、全く無かったことに、改めて気付かされた。

 別れ道になる直前に、不二は一つだけ、疑問を聞いておいた。
「ね……ちょっと君、僕がいないと、いろいろと困るって言ったよね」
 先ほど言われた言葉を不二は繰り返した。
「……それは、そうだな」
「じゃ、それって部長として? それとも個人として?」
 不二は手塚の顔を覗き込むようにしながら尋ねた。
「それは……」
 手塚は視線を反らした。返答に困ったようだった。

「……まあいいよ、もうどっちでも」
 不二は身を引くと、手塚より早足で進んだ。
 そのまま、自分の道に入る。
「じゃ、僕、こっちだから……」

 「困る」って言われたとき、素直に嬉しかったし。
 それに、「部長として」とはっきり言われたらショックだったけど、迷うぐらいならまだ自分に可能性だってあるのだ。

 そう思って照れた顔を見られたくなくて、後ろを向いた。

 後ろから手塚の声が聞こえる。
「明日はちゃんと来い。そして無断欠席の罰でグラウンド50周だ」
「……解ったよ。じゃあまた明日」
「ああ」

 いつもの別れの挨拶で、手塚は家へと帰っていった。
 「また明日」という、何気ない一言が、妙に嬉しかった。

END


終わったよ……なんとか終わったよ……
長引いた割に結局なあなあでごめん……いろんな問題提起だけして答えでないまま終わった感じ……詰め込みすぎたか。
まあ天才様のお楽しみ(苦悩)はこれからなのです。
個人的にも「それでいいのか塚!?」とか思うんですが、だって塚だし(謎)
……シリアスで長いと書いてて疲れるしまず何よりも向いてないことが解ったのが一番の収穫かと。げふー。

例の一年生書記の正体ですが……大和の妹っていうのもアリかな、と思ってたんですが
ファンブックで家族構成明かされるまではちょっと……と思ったので捏造キャラに。
つか、20.5巻、大和載るかな……(遠い目)

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