(………………無い)
放課後の部室で鞄の中身をひっくり返しながら、手塚は途方にくれていた。
探し物が見つからないのだ。
普段は手帳に挟んであるものだ。何時の間にか抜け落ちていたことにほんのついさっき気がついた。鞄の中をきっちり捜してみたが無かった。だが、昨日の夜寝る前に確認した時は間違いなくあったのだから、落としたとしたらその後の話だ。それ以後の行動を考えてみればよい。自室か、それとも部室か、もしくは教室、生徒会室……。
「手塚、どうしたの?」
部室で一人、悩んでいるところに、不二が入り口からひょこりと顔を出した。いつものことだが待っていたらしい。
「もうすぐ校門閉まっちゃうよ」
「ああ……実は、落し物をしたようでな」
「何? 探すの手伝うよ」
不二は部室の中に入ってきた。
「手帳に挟んでいた……」
そこまで言った時点で、不二の顔色が変わった。
「……ひょっとしなくても」
ごくりと息を飲む音が少し離れた手塚のもとまで聞こえた。
「……大和、部長の」
「そうだ」
「………………」
不二は黙り込んだ。俯いた顔の表情は読めない。
だが、不二が黙り込むような時はたいてい機嫌が悪くなったのだという事を、手塚は経験上知っていた。
「……無くしたんなら仕方ないよ」
下を向いたまま、不二は普段と変わらない声で言った。しかし、僅かに声が震えていることに手塚は気付いた。
「帰ろう。生徒会長が下校時刻に遅れたら問題だろ?」
「だが昨日までは、あったんだ」
「……何を拘ってるんだよ。別にいいじゃん」
不二の口調に感情の色が強くなってくる。いつもの笑顔のポーカーフェイスはもう無い。
「お前な……」
「あんな人のことなんか、もうどーでも……」
大和がらみの事に関して、不二は普段から考えられないほど辛辣かつ強情だった。
それは二人が一年の時から変わらない。
手塚にしてみれば、不二がどうしてそこまで「あの人」に関して嫌悪剥き出しになるのか解らない。
しかし一方、不二の方から言うと、どうして手塚が自分の気持ちを理解してくれないのかが解らない。
……好きな人が他の人間の事を熱い眼差しで語っているのを見て、平常心でいられるものか。
「君さ」
はっきりと苛立ちを込めた声で不二は言った。
「越前にも何か言ったんだっけ。青学の柱がどーとか」
「……ああ」
その答えを聞いて、不二はこれ見よがしに大きく溜息をついた。部室内のベンチにどかりと腰掛けて足を組む。一つ一つの行動の荒々しさに自分の怒りを表しながら。
「それって、君があの人に言われたっていうヤツだよね」
不二は馬鹿にした様子で、首を横に振った。
「結局、君、あの人との関係を越前に押し付けてるだけなんだよ」
「…………」
「越前には自分と同じようになって欲しいっていう、ただの自己満足で」
手塚は鞄の中に目をやったまま何も答えなかった。
「だけど越前は君とは違う」
手塚が反応をするまで、かなりの時間があった。いやに開いた間は、彼の内心を物語っていた。
ゆっくりと手塚は答えを返した。
「…………そうだな」
開き直りとも取れるその答えに、不二はベンチから立ち上がって怒鳴りつけた。
「解ってるならさ……!」
一瞬激昂しかかった不二は、しかし言いたい言葉を飲み込むように口を噤んだ。そのまま再び椅子に腰掛ける。
手塚は下を向いたまま、沈黙を守っている。
その態度に、不二は自分ではどうにも動かせない手塚の意志の強さを感じた。
手塚は他人の言葉で自分の信念を変えるような人間ではない。
それが彼の意思である限り、自分が何を言っても無駄なのだ。
そう割り切った不二は、諦めたようにベンチから立った。
「やっぱり今日、先に帰るから」
「……そうか」
「探すんなら勝手にしなよ」
鞄を背負い、ドアまで歩いたところで、足を止めた。
ノブを回しながら、手塚の方を向かずに告げる。
「……いい加減、自覚したら?」
無駄だと解っていても、言わずにはいられなかった。
たかが中学の部活ごときに……先輩の言葉ごときにそこまで拘る手塚が、不二には理解できなかった。
ましてや、手塚は部活動レベルで燻っていていい存在ではないというのに。
「君は囚われてるだけだよ。……あの人の言葉に」
それだけ口にすると、ことさら派手な音をたててドアを閉めた。
★★★
ロッカーと床の隙間に挟まっていた「それ」を発見したのは、朝練が終わって着替えている最中のことだった。
(……写真?)
越前はその紙片を拾い上げた。部室に落ちているという事はテニス部の誰かのものに間違いはないだろうが。
表面を見ようと写真を裏返そうとした瞬間、声がかかった。
「おーい、そろそろ行かないと授業に遅れるぞ、越前」
「あ、はいっス」
鍵を持つ大石の声に追い立てられて、慌てて越前は荷物をバッグに詰め込んだ。
大急ぎで荷物をまとめたせいで、例の写真も一緒に持ってきてしまった。
英語の時間の最中、ふと教科書に挟まっていた写真を見つけた越前は、それに目をやった。
部室で拾ったそれに写っていたのは、越前が見た事のない二人組みだった。ラケットを抱えた一年生らしい体操服姿の生徒と、その後ろにいるテニス部レギュラージャージの人間。日付は、二年前になっている。
前に写っている、小さい体操服姿の生徒には見覚えがあるような気がした。髪の分け目こそ違えど、何よりもその解りやすいメガネの仏頂面。
(もしかして……一年の時の部長?)
思わず吹き出した。その声を聞きつけた英語教師がわざらしく咳払いをしたが、お咎めはそれだけだった。
あの手塚に一年生の時があるという事実が、越前には素直に面白かった。手塚にも一年生時代があるのは当たり前の話なのだが、どことなく手塚は生まれた時から部長の手塚だったように思えたからだ。
部長にもこんな時代があったのだ、と感心しながら、しげしげとその写真を眺めた。一年生手塚と一緒に写っている、このレギュラージャージの青年は当時の先輩なのだろう。今のレギュラー陣もいい加減個性的なメンバーばっかり集まったものだが、その中の誰よりも個性的な印象を持つ人物だった。パッと目に付く無精髭にサングラスのせいで、レギュラージャージを着ていなかったら到底中学生とは思えない。どことなく全身に漂う雰囲気が胡散臭い。見れば見るほど謎が深まる人物だった。
写真の中の一年生手塚の顔がわずかに強張っているのは、おそらく先輩と共に写って緊張しているからだ。……と考えた越前は、あの手塚に「緊張」という言葉があったことに再び吹き出した。全く意外な発見ばっかりさせてくれる写真だった。
出来れば、このまま自分のものにしたい気もするが、持ち主は間違いなく探しているだろう。
(でも……いったい誰の)
まず浮かんだのは写真に写っている当の本人だが、自分の写真を持ち歩くような人物には思えない。
それよりも可能性が高いのは不二先輩の方だな、と考えた。青学NO.2と呼ばれている彼が、その上を行くNO.1をいろんな意味で複雑に意識している事は越前にもなんとなく感じられた。前に写真が趣味だ、と聞いたこともある。この写真も不二が撮ったものだと仮定しても間違いは無いような気がした。
もしくは、青学が誇るデータマン・乾のものか。その辺りではないかと予想をつけた。
とりあえず放課後、この二人に聞いてみることにした。
★
その日の放課後、部活が始まる前のこと。まだ、手塚も不二も来ていないが、乾がそばにいたので、まずは乾から当たってみる事にした。
「乾先輩、ちょっと」
越前は、先日拾った写真を乾に見せた。乾は差し出された写真を見下ろしながら、珍しそうな顔をした。その顔からするに、乾のものではないらしい。
「懐かしいものを持っているな。どうしたんだ、これ」
「部室で拾ったんス。誰のものかと思って」
乾は少し首をかしげた。
「さあな……だがおそらく、不二のじゃないか?」
「やっぱり……これって、一年の時の部長っスよね?」
「そう」
乾は首を縦に振った。
「手塚の写っている写真が不二のものである確率は91.9%だ」
どんな計算で出てきた数値かは解らないが、やけに納得できる答えではあった。だが……と、乾は独り言のように小さい声で続けた。
「『あの人』が写ってる写真を、不二が残すだろうか……」
乾の表情に、越前は訝しげな顔をした。
「『あの人』?」
越前のその声で、考え事に浸っていた乾は我に返った。越前に説明を始める。
「……手塚の後ろの人。名前は……」
乾が説明を続けようとした瞬間、越前の頭の上に突然手が置かれた。そしてテンション高く二人の話に割り込んできた。
「なーに二人の世界作ってんだよ〜おチビ〜」
「うわっ……菊丸先輩、重いっ……」
「オレも混ぜて混ぜて〜」
乱入者は菊丸だった。ダブルスパートナーの大石がまだ来ていなくて暇だったところ、珍しい組み合わせの二人に目をつけたらしい。越前の横から自分の顔を出すようにして、問題の写真を目にした。
「うわっ懐かし〜! 大和部長じゃん〜」
「やまと……部長?」
どうやら、それがこの一見不審人物の名前らしい。
「そうそう、これが一年の手塚。ちっちぇよなあ〜。で、一緒にいる人が大和部長」
「俺たち今の三年が一年の時の部長だった人だ」
以前の部長、と聞いて、越前の闘争心が揺れた。
「強かったんスか?」
目を輝かせてまず強さを尋ねる一年に乾と菊丸は苦笑した。乾が答える。
「うちの部長を務めていたぐらいだから弱くはなかったが……手塚に勝てるほどではなかったな」
「ちゅーか手塚が一年の時から強過ぎたんだよね〜。だって先輩誰も勝てなかったじゃん」
菊丸は当時を懐かしむように首を振りながらしみじみと語った。
でも、と、乾が続ける。
「手塚にとってはいろいろと恩人にあたる人でな。すごく尊敬していた」
「そう……なんですか?」
越前は目を見開いて驚いた。
尊敬? あの手塚が? 自分より弱い相手に?
その感覚が越前にはいまいち解らなかった。
「そりゃあ……だってさ、『グラウンド20周!』っての大和部長のパクリだよな」
菊丸の似てない口真似に、乾は頷いた。
「間違いなく影響されているな。もっとも、性格まで影響された訳ではないみたいだが」
「ぶっ。影響受けてたら……そ、それ、凄い手塚になりそうなんだけどっ……」
ぎゃはは、と菊丸は腹を抱えて笑い出した。乾も口を手で押さえて笑いをこらえている。しかし、その「大和部長」の人となりを知らない越前には何が面白いのか解らない。
「まあ……あの固い表情は治るんじゃないか?」
「た、確かに……ちょっとぐらい影響受けた方が……。で、でも〜、あー腹いて〜」
一人とり残された越前は、ちょっと声に苛立ちを込めて、笑い続ける二人に問い掛けた。
「……何がそんなに面白いんスか」
ひとしきり笑い転げた菊丸は、ようやく越前の存在を思い出したかのようだった。
「あ、ごめんおチビ。おチビは知らないもんな〜」
「大和部長は……まあ、正直なところ、結構個性的というか……」
「変な人だったよな〜」
乾がお茶を濁した言葉を菊丸はすばりと言ってのけた。だがそれは越前も外見でなんとなく予想していた。無精髭を生やした中学生が普通の人だったらそっちの方がある意味で驚きだ。
「運動会や文化祭で率先して変な事やってたもんな〜。クリスマスも凄かったし」
「合宿であった『血の日曜日事件』を覚えているか?」
「あ、そうそうアレ。アレ凄かったよなあ〜『現場に残された翡翠の謎を追え!』だろ?」
「…………」
再び二人の会話についていけなくなった越前だが、今度はついていこうとする気力も失せた。……何者だ一体。学校行事でその事件名は一体なんだ。
「しっかし、何であの手塚があんなに尊敬してたか、イマイチわかんないな」
「……いろいろあったみたいだからな」
「だけどさ〜」
思い出話は長引きそうだったが、そろそろ部活が始まる。越前は強引に話をまとめに入った。
「と……とにかく、この写真、不二先輩のものでいいんですか?」
乾と菊丸はそれを聞いて首をひねった。
「可能性は高いと思われる、が、不二は……」
何か言おうとした乾の口を、菊丸が慌てて塞いだ。
「そう! おチビ、その写真、不二に見せてきなよ〜。きっと、面白いもの見れるからさ!」
「……はあ?」
「絶対すっごい貴重なもの見れるって! 保証するからさ!」
菊丸の妙な答え方に、越前は目を丸くした。
何が面白いと言うのだろう。
「そのかわり……」
菊丸がそう言いかけたところで、大石の呼び声がした。
「みんな、部活始めるぞー」
「あ、ほーい大石〜。行っくぞ〜二人とも〜」
「ちょ、ちょっと、……っ」
意味深な台詞だけ残して菊丸は乾をつれて去っていった。取り残された越前は釈然としない思いを抱きながらその写真を鞄の中にしまい、二人の後を追って部活に向かった。
★
「……あ、不二先輩」
部活終了後、既に多くの部員たちは帰路についている。帰ろうとした自分を呼び止めた越前に、不二は普段の和やかな笑みを見せながら応じた。
「どうしたんだい、越前。珍しいね」
越前としては、不二は声をかけやすい先輩とは言い難いタイプだった。どうにも得体の知れないところがあるからだ。
「珍しい」と茶化されたことは反応せずに、越前は、菊丸に言われたとおりに例の写真を不二に見せた。
「あの……この写真、拾ったんすけど、先輩のじゃないかって、乾先輩が」
「……写真?」
差し出された写真を、不二は視界に入れた。
その瞬間。
「………………ッ………………」
不二は目を見開いていた。
先ほどまでの穏やかかつ上品な表情は既に消えている。加えて、舌打ちまでしている。
(…………!?)
その態度のあからさまな変化に、越前はぎょっと身構えた。
不二周助が開眼する時、何かが起こる――は、青学テニス部七不思議の最後の一つとして一年生の間で(主に三人組の間で)まことしやかに囁かれていた。
あの「化け物」が、たった写真一枚でここまで表情を変えている。
いったいどういうことだ。
「……越前」
ドスの効いた、地獄の底から響くような声で、不二は越前に問い掛けた。さすがに傲岸不遜が売りの王子も僅かにたじろいだ。それだけ強烈な変化だった。
「は……ハイ」
ようやく、越前の頭の中で、菊丸の妖しげな態度とこの写真と不二の態度の変化の三者が結びついた。
手塚が尊敬している先輩なんて、手塚に懸想している不二としては、当然邪魔な存在だったに違いない。
そんな写真を彼が見たら、当時を思い出して腹を立てる事は間違いないわけで。
(菊丸先輩……知っててわざと……!)
越前は内心で菊丸を恨んだ。
だが既に遅い。
「……残念だけど……」
不二は地の底を這うような声を搾り出した。あの細身のどこからこんな声が出せるのかある意味不思議だった。
「この写真は……僕のモノじゃないよ」
「そ、そう……なんすか」
蛇に睨まれた蛙よろしく、魔王に睨まれた王子はやっとの事で声を出した。
「……そう。こんな……」
何かを言おうとした不二は、不意に、険しい表情を緩めた。突然の表情の変化だった。
はあ、と大きく溜息をつく。
それに伴って場の緊張がなくなり、越前はようやく落ち着いて呼吸できるようになった。
不二は何かを諦めたかのように話し始めた。
「……それ、手塚のモノだよ」
「……部長の?」
「そう、いつも手帳に挟んで持ち歩いてる」
意外な答えだったので越前は目を丸くした。
それは越前にとって一番考え難い可能性だった。
あの手塚が、自分と他人の写った写真なんて持ち歩くのだろうか。そもそも、同性の先輩の写真を持ち歩く男子中学生がいるだろうか。
それじゃ、まるで……
「まるで『恋する乙女』みたいだろ?」
自分の心を掬い取ったかのように、不二がそう言ったので、越前は驚いて不二に視線を向けた。
苦笑している不二は、どこか寂しげだった。
「手塚にとっては大事な人だったみたいだからね」
「……大事って……」
越前は写真に目をやった。
写真の中の手塚は、やはり、越前の全然知らない人のように見えた。
「……どうして、っスか?」
「……さあ」
質問に不二は答えなかった。知っててはぐらかした様だった。
「だって、この人、部長より弱かったんでしょう?」
「………………」
不二は何かを考えるように、しばらく黙り込んだ。
そして少し後、突然声を立てて笑い出した。
「や、やっぱり……君は全然手塚とは似てないよ」
「……何の話ですか?」
不二が急に笑い出していたので、越前はむっとした。先ほどから自分の知らないことを話されたり笑われたりするのでかなり面白くないのだ。その上、何故手塚と似てる似てないの話が出てくるのかもさっぱり解らない。
「だからさ」
笑いを落ち着けると、不二は急に真顔になった。
「君は囚われることはないだろう、ってことだよ」
手塚や僕みたいにね、と不二は小声で付け加えたが、その言葉は越前には聞こえなかった。
「だから……何の話ッスか」
結局何の話なのか越前には理解できなかった。あれだけの会話から推測しろと言うほうが酷だ。
だが、不二はすでにいつもの顔に戻っていた。
「解らないならいいよ。言っておきたかっただけだから」
それだけ言うと、不二は踵を返して歩き出し始めた。慌ててその後を越前も追う。相変わらず何を考えているのか全然解らない先輩だった。自己満足にもほどがある。
「ちょ……そんな、勝手な……」
「……その写真、手塚に返しといてよ」
「え?」
「今職員室に行ったからさ。少し待ってたら戻ってくるだろうし」
「……でも」
不二は越前が手塚に近づく事を快くは思ってないはずだ。だと言うのにどういう風の吹き回しだと言うのか。
「君が見つけたんだしね。僕は校門で待ってるって手塚に伝えといて。君も桃を待たせてるんでしょ」
「……解りました」
それだけ言うと不二は去っていった。その言葉に従って、越前は部室で手塚が戻ってくるまで待つことにした。自転車置き場で桃城を待たせているが、まあ大丈夫だろう。
★★★
「アレ、見つかったでしょ?」
「………………」
手塚は無言で肯いた。
越前の言葉どおり、校門にいた不二は、妙に上機嫌だった。昨日とは段違いだ。先ほど越前の話によると「この写真を見せたとたん不二先輩が開眼したから驚いた」そうだから間違いなく怒っているだろうと思っていたのだが。
思わず問い掛けた。
「どうしたんだ」
不二は軽く首をかしげた。
「今更写真ぐらいで怒るの馬鹿馬鹿しいな、と思って。ごめんね、昨日は」
「…………そうか」
手塚にとってみればありがたいことだが、いったいどういう心境の変化だと言うのだ。そのほうがある意味恐ろしい。
並んで校門を横切りながら、不二は独り言のように呟いた。
「……ひょっとしたら」
囚われていたのは、僕の方かも知れないし
「……何だ?」
不二が何を言ったのか聞こえなかったので、手塚は問い返した。
しばらく何を言おうか迷っていた様子だった不二は、不意に微笑んでこう言った。
「……越前と君は全然似てないってことだよ」
「……だから、当然だろう、それは」
「そうだね」
手塚は釈然としない気分になった。それは昨日も聞いた。不二の内部でどういう変化があったのか、やはり解らなかった。
だが、とりあえず、機嫌が直ったことだけは歓迎してよさそうだった。
顔には出さずに手塚は安堵した。
「……でもさ、やっぱり」
急に不二の声が低くなった。
「先輩の写真持ち歩いてるのってやっぱり気持ち悪いよ」
「……そうか?」
『気持ち悪い』とまで言われたので、さすがの手塚も眉を顰めた。
「そうだよ」
「お守りにして肌身はなさず持つように、と言って部長から直々にもらったものなんだが……」
手塚は今でもその時のことを鮮明に思い出す事が出来る。あれから二年、自分が青学の柱としてやってこれたのはこのお守りのおかげだった。
だが、その言葉が不二の機嫌を再び悪化させた事に手塚は気付かなかった。
「……やっぱり明日までに写真、捨ててきて」
「な……何を言い出すんだ!」
「自分で捨てられないんなら僕がちゃんと供養してあげるからさ! お守りなら代わりに僕の写真でもあげるから!!」
不二が自分の鞄の中を漁りだそうとするのを、手塚は必死になって止めた。
「や……止めんか!」
「何か変な黴菌とか液体とか付いてるかもしれないんだよ!?」
「な……何を言ってるんだお前は!!」
★★★
騒ぎながら帰っていく二人を、自転車に二人乗り中の越前と桃城が発見した。
「……あれ、部長と不二先輩だよな。道端で何やってんだか」
「ただの痴話喧嘩っすよ」
そう断言した越前に、桃城も深く肯いた。
氷帝戦の前のつもりだったんだが……時間軸が相変わらず微妙……反省。……いつもか。
元ネタは日記「大和の写真を今でも持ち歩く塚は嫌だ」より。
塚としては自分が大和を尊敬してたように王子にも自分を尊敬して欲しい思いがあるのですが
当の王子は王子なので塚をテニスの実力でしか認めていないという。
そんな感じで。
……って、これ、塚リョ?
どっちにしろカプ混在話ですみません……。
大和―塚―王子の青学の柱繋がりは非ホモ推奨で……ホモなのは不二だけっちゅー……(それもどうかと)。
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