彼に追いつけないことが理由じゃなくて。
彼に置いていかれることが、彼を憎む本当の理由なのだ。
「promise the moon」 ACT 2
◆
大和の言う通りだと、頭のどこかで理解していた。
自分は手塚のことが本当は憎いのだ。あれだけの才能を与えられた存在が。
だが、それを他人に見抜かれる事は我慢できなかった。
だから反発した。相手の裏をかくような事を言いたかった。
しかし、だからと言って。
どうしてこういうことになっているのだろう、と不二は自問自答した。
結局答えは出なかったのだけど。
胸の上を骨ばった指が這いまわっている。上着を脱がされてシャツを肌蹴られ、その隙間から指が侵入しているのだ。冷たい人の指が素肌に触れる感触はやけにくすぐったかったが、声はぐっと我慢した。
目の前にいる男は妙にこういう行為に手馴れているようだった。机に座った不二の前に立って上半身を覆うように抱きしめている。全身をゆっくりと指が動きまわり、触れられる部分が次第に熱を帯びてくる。
自分のやっていることに嫌悪感を感じる一方で、もう好きなようにされるのならいっそ身を任せた方が楽だ、と投げやりな気持ちになっていた。先ほどよりも意識は醒めていたが、これから始められる行為の予感にに身体の方はじわりじわりと昂ぶり始めていた。
「……何、考えてます?」
「……別に」
「そうですか? 上の空でしたよ」
「…………」
集中しろ、とでも言いたいのだろうか。
ただの取引なのに?
抱かれてもいい、と答えたのは自分だが、それを楽しむなんて事は一言も言っていない。身体だけ与えてやれば十分なはずだ。向こうだってそれだけしか望んでいないくせに。
「不二君、ちょっと」
「……?」
不意に片手で顎を持ち上げられた。その瞬間に唇を奪われた。僅かに開いていた隙間から口腔に生暖かい舌が侵入してくる。他人の舌が口の中を蹂躙している。苦しくなって口を開こうとすると、余計に深く口と口を重ねられた。上顎や頬の裏側を思い切り舐められると、そのまま喉の奥まで舌が入ってきそうな錯覚に襲われた。
「んっ……」
口の中で舌を絡められ、唾液を混じらせあう。くちゅくちゅといやらしく響く音が聴覚を支配する。最後に思いっきり舌を吸われて、口を離されたときには、息がすっかり上がっていた。
「……はぁっ……」
意図せず、甘く濡れた声が口から漏れた。
その声を聞いた大和は、かすかに微笑んだ。
「そんなに、良かったですか?」
「く……」
口から溢れた唾液で汚れた口元を拭うが、上気した息遣いと紅色に染まった頬のせいで、感じている様子は隠せなかった。まだ、唇に重ねられた相手の感触が残っている。キスの経験がなかったわけではないが、舌まで入れられたのは初めてだった。
そして、キスだけでこんなに感じてしまったことも。
わずかに屈辱感が沸き起こる。
「キスだけで感じてます?」
「……まさ、か……」
からかうような声に思わず強がってしまったが、虚勢である事はバレバレだろう。瞳に力をこめて睨みつけるが、そんな不二の目を見た大和は再び微笑んだ。
「そうですよね。まだまだ、これからですもんね」
首の後ろに手が回されたかと思うと、耳の後から首筋を優しく撫でられた。その指の動きに唇を噛んで耐えた。
「……ッ……」
「楽しませてもらいますよ」
◆
平らな胸を撫でていた手が、片方の突起に触れた。慣れない感触に身体が少し震える。
「ここを触られるのは、初めてですか?」
そう言いながら、大和は胸の突起を指の腹で軽く押し潰した。そのまま転がすように弄ぶ。触られてもただこそばゆいだけだった。僅かに目を細めて、不二は短く肯いた。そこが女性のように感じるとは聞いていたが、試した事はない。あるわけがない。
大和はわかりました、と首を縦に振ると、指の動きを強めた。
「痛っ……」
先端に爪を立てられる。鋭い痛みに辛さを訴えるが、大和は構わず愛撫を続けた。指先で摘んで引っ張り上げるようにしながら、捻り上げる。そのまま指を前後に動かして捏ねるようにする。
「ん……」
「かなり赤くなってきましたね」
大和は胸に顔を寄せると、舌で突起を舐め上げた。充血した乳首は、それだけで刺激を生んだ。濡れた舌の感じが気持ち悪かった。痛みの中に、何かむずがゆいような妙な感覚が生まれ始めている。そのまま、口の中に含まれた。唇で包まれて吸い上げられる。手はまだ柔らかい胸全体を柔らかく揉んでいる。
「……やっ……!」
小さく声を上げたのは、同時に、股間をズボンの上から擦られたからであった。
「一緒に可愛がってあげますよ」
胸に舌を這わせながらそう言う。
布越しに何度か擦られているうちに、そこはゆっくりと反応を始めた。
「……ッ……」
それを見越したかのように、大和は不二のズボンの金具を外すと、チャックを開けて指を下着の中へと差し込んだ。
「!!」
他人の手が弱い場所に触れて、不二はぎゅっと目を閉じた。熱くなり始めていたそこに冷たい指が触れただけで全身が震えた。だが、反抗もしなかった。ただひたすら指の嫌悪感に耐えた。
「……抵抗、しないんですか?」
大和の今更の問いに、不二は必死で虚勢を張りながら答えた。
「……そういう……取引、でしょう?」
「……そうですね」
大和はわずかに、諦めたような溜息をついた。
やがて、不二自信を片手で優しく包んで、上下に擦り上げ始めた。
「…………!」
骨ばってゴツゴツした指の感触が、じかに身体に伝わってくる。その場所を他人に擦ってもらったことはあったが、大和の手は的確に感じるポイントをついてきた。根元の睾丸との付け根の部分や、立ち上がった裏側の部分などを重点的に指で擦られる。
「……やぁッ」
股間での指の動きに合わせて乳首を口で軽く噛まれると、喉から甘い声があがった。
「……!?」
「……感じてるみたいですね。飲み込みの早い子は好きですよ」
「……く……」
からかい半分の口調で大和にそう言われて、不二は唇を噛み締めた。二度と声は出すまいと誓った。だが、そんな誓いも、股間を弄られていくうちに熱で頭が浮かされてきて、どうでもよくなってくる。
時々胸に与えられる痛みも、身体ははっきりと快楽だと認識するようになっていた。
「だいぶ固くなってきましたね」
大和はそう言うと、一度ズボンから指を取り出した。胸元に寄せていた顔もすっと去っていく。
机に腰掛け、胸を肌蹴られて股間を開いたそのままの状態で、不二は大和を視線で追った。
反抗するためか、それとも縋っているのか、自分でも解らないままだった。
「……そんな誘うような目、しないでくださいね」
苦笑交じりに言う大和に、不二が奥歯を噛んだ。
高められた股間はじんじんと熱を持っている。下着の中に収まっているのが辛いぐらいだ。
だが、その状態を見抜かれたくなくて、不二はなんとか不適な笑みを浮かべた。
「……誰が……」
「安心してください。まだまだこれからですよ」
そう言うと、大和はすっとしゃがみ込んだ。
「……?」
驚く不二には構わず、両膝を持って不二の足を割り開いてその間に身体を押し込んだ。まだ服を着たままだが、股間は大和の目の前にある。先ほどまで、大和自身が嬲っていたものも。
「……口でしてあげましょう」
「――ッ!?」
その言葉の意味する行為を思い描く前に、開いたズボンのチャックから見える下着をぐっと下に引き摺り下ろされた。擦られることで昂ぶっていた自分自身がその中から顔を出す。
「ああ、やっぱり思ってたとおり……まだ初々しい色をしてますねえ……可愛らしいですよ」
「……ひッ……!!」
「でもちゃんと大人になってますねえ……」
「……や、やだ……っ」
この体勢で大和がいったい何をする気か、不二はようやく思い当たった。
「駄目ですよ、そんなこと言っちゃ。取引に違反しますよ?」
大和はそう言うと、先端をぱくりと口に含んだ。
「んっ!!」
口の中で、舌を使って亀頭全体を舐めまわされる。濡れた肉の塊は柔らかく自分自身を包んでいた。背筋を駆け上がる快感に思わず上半身を前に倒した。
「ひっ……」
舌で先端を剥き出される。生暖かい粘膜に包まれるその感覚に耐え切れず、なんとか頭をどけさせようと、股間に埋められた大和の髪をぎゅっと掴んだ。
「や、止め……そんな……!」
だが、括れを甘く噛まれると、思わず髪を掴んだまま大和の頭を股間に押し付けてしまった。
驚いたのか、大和は一度、先端から口を離した。
「痛いですよ、不二君。そんなに良かったんですか?」
「ちが……そんなの……」
自分を見上げている大和は、唾液に濡れた唇を手で拭っていた。そのすぐそばに先端の濡れた自分の性器があった。
何をされているのか、生々しい光景を見てしまった。
大和は不二が下を向いているのを知っていて、片手で股間を割り開きながら、わざと性器を舐め上げた。根元から先まで。舌を出して濡れた卑猥な音を立てて。
「気持ちいいでしょう?」
股間から、脊髄を通して頭にまで快感が伝わってくるようだった。
「や……っ」
耐えられなくなって目を背けた。固く閉じた瞳の端に涙の粒が浮いているのも気にならなかった。
陰嚢を手のひらの中に包まれると、それだけで太腿の筋肉がぶるぶると震えた。他人に無理やり射精を促されている恥ずかしさと快楽の相反する感情に襲われる。
顎をぐっと引いて、唇を噛み締めた。
更なる快感を求めるように、髪を掴む指の力を強くした。それに答える形で大和は先端を口に包むと、親指と人差し指で輪を作って根元から幹を擦り上げた。
「んんッ……も……っ」
口の中で出すのは躊躇われて顔を引き剥がそうとしたが、大和は応じなかった。
一際強く口内で吸い上げられると、思考が止まった。
「ひぁ……!!」
足が大きく痙攣する。
一際高い声を上げて不二が放ったものを、大和は全て、口内で受け止めた。
「あ……ぁあ……」
我慢しようとしたが、仕切れなかった。気持ちよさの中に、拭いきれない嫌悪感があった。
大和は残滓まで残さず吸ってから、ようやく股間から顔を離した。
「ご馳走様でした」
口端に溢れた白いものを拭い取り、自分を見上げながらそう言われた。
意識がだんだんと鮮明になる。それに伴って状況判断能力ももとに戻りつつあった。
「……くッ……」
頬が思わず赤く染まる。達したものを全て飲まれてしまった。その瞬間も見られていた。
大和は顔を上げると、不二の頭に手をおいて何回か撫でた。
耳元に囁かれる。
「可愛らしかったですよ。イく時の不二君」
「……!!」
首をそむけようとしたが、大和の手によって阻まれた。
「普段からこれぐらい素直だと、いいんですけどねえ……」
「か……勝手なこと……っ!」
頭の上の手が下に降りてきて、首筋を何度か撫でた。一度目の射精で敏感になっていた身体は冷たい指の感触に簡単に反応した。
びくりと震える身体を、何とか縮めて耐えた。
だが、大和は不二が感じていることなど知っているようだった。
「……敏感なんですね」
「や……」
腕を腰に回して、シャツの裾から背中と腰を撫でる。わき腹を撫でられ、背骨の下のほうを強く押しながら揉まれる。たったそれだけの事なのに息が再び荒くなる。
指はやがて、腰からさらに下へと滑り落ちていった。ベルトが緩んでいるズボンの中に指は簡単に入っていった。
その意味に思い当たって、不二は身を固くした。
「じゃあ次は、こっちを見てあげましょう」
楽しそうな大和の声に、反論するだけの気力もなくなっていた。
◆
「そのまま、仰向けに寝てください」
言われたとおりに机の上に背中をつけて、押し倒されたような体勢になった。
するとすぐに宙に浮いた足から、ズボンと下着が一気に下ろされた。
「く……っ」
何もまとっていない股間に、外気のひんやりとした感触が気持ち悪かった。両足を閉じたかったが、大和が足の間に身体を置いたので無理だった。
「よく見えませんねえ……そうだ、足、上げてください」
「な……」
絶句している自分に追い討ちをかけるように大和は命令した。
「不二君が自分の手で、両足を持ち上げて下さい。僕にあそこがよく見えるようにね」
「そ、んなっ……」
羞恥よりも怒りを覚える。そんな恥ずかしい事、出来るはずが無い。
そう反論する前に、宥め声で大和が続けた。
「恥ずかしい? ……無理なら、約束は無しにしましょう」
「っ……!」
かすかに微笑んでいる男の顔を睨みつける。約束のことを持ち出せば不二が断れないのを知った上で要求しているのだ。趣味が悪いことこの上ない。
だが、その約束に応じたのは自分だ。
いまさら、引き返す事なんか出来ない。
「んっ………………」
仰向けになったまま、両手を両膝に伸ばして後ろから持ち上げる。濡れた性器も隠された場所も目の前の男の前に晒される。
「そう……もう少し、足を開いてみてください」
「…………」
投げやりな気分で、言われたとおりに両膝を割った。
「……良い子ですね」
「く……」
大和は一度身体を伸ばして不二の額にキスをすると、再び股間の眼前に顔をやった。
「丸見えですよ。こことか……」
「うっ……」
裸になっている足の間に指が触れる。指が一度達した性器に触れる。そのまま撫でながらどんどん下に降りていく。足の付け根をなぞられると全身から力が抜けた。思わず足を落としそうになって、慌てて力を入れなおした。
「可愛らしい蕾もね……」
ゆっくりと動いて後ろの穴に達した指先は、その周辺を撫でるように動いた。
「ひくついてますよ。こっちも綺麗なピンク色ですね」
「……や……だ……!」
そんな場所を他人に弄られているという嫌悪感で反射的に身を引いた。上擦った悲鳴を上げる。
「駄目ですよ。嫌がっちゃ……」
付近を嬲っていた指先がわずかに肉の中にめり込んだ。
「! ……痛……ッ」
声を上げてからいまさらながらに気付く。
これから、その場所に大和のモノを受け入れるのだ。
そして、そのための準備をしなければならない。
「……ひ……」
無意識に腰を引くが、大和はそれぐらいで動きを止めはしなかった。
指先で穴の入り口付近を嬲り続けている。
羞恥心と痛みと恐怖が混ざった感情が脳を支配する。
「や……」
無意識に身体が拒んで、首を横に振った。
「嫌、ですか? やっぱり、入れられるのは恐い?」
そんな不二の様子に気付いた大和が、声をかけてきた。泣いている子供を慰めるような優しい口調で。
「怖いのなら、ここで止めましょうか?」
股間を弄っていた指が動きを止めた。
そのまま大和は身体ごと離れていく。
「あ……」
急に身体を投げ出されて、不二は一瞬呆然とした。足を持ち上げていた手を下ろすと、上半身を少し上げて、縋るように大和を見上げた。
「嫌なんでしょう? これ以上進むのは。だから止めてあげます」
くすりと笑う大和に、不二は顔を赤くした。
馬鹿にされているのだと思った。
「そうやって、無理して強がるのは止めなさい。いつか酷い目に合いますよ。簡単に身体を投げ出すような真似をするのもよくありません」
窘めるような大和の言葉に、不二はぎゅっと拳を握り締めた。
子ども扱いされているのがありありとわかった。
「先輩からの忠告です。あんまり自分を貶めるようなことは止めなさい。さっきの口約束は反古にしましょう」
大人ぶって話す大和の言葉に、反感しか持てなかった。
「……ここまでやっといて、何を今更……」
赤く熟れた唇ををなんとか笑みの形にする。余裕を表すために。
「貴方だって、慣れてるみたいじゃないですか。こういうの」
「……いくらなんでも僕だって男の子相手は初めてですよ。だから、この先、どんな感じなのか解らない。それでなくても身体にかなりの負担をかけると言いますし……」
「……じゃあ、恐がってるのは貴方の方じゃないんですか?」
やや困り顔の大和に、不二は嘲りを込めて言った。
「結局、貴方だって手塚に嫌われるのが恐いから偽善者ぶってるだけのクセに」
「…………」
普段から饒舌な大和が黙り込んだのは、反撃のチャンスだと思った。
自分から顔を寄せて、相手の唇に喰らいついた。先ほどされた濃厚なキスを出来るだけ真似して繰り返してやる。
唇を離すと、舌から糸を引いた唾液が伝った。
大和は何も動じず、ただされるがままにキスを受けていた。
口元を拭いながら、不二はそんな大和に不適に笑いかけた。
「セックスぐらい構わない、って言ったでしょう?」
「……不二君」
「ここで止めるから、貴方は所詮偽善者なんです」
大和は反論も何も語らず、真摯にこちらを見つめているだけだった。
「……貴方の言うように、僕は手塚なんか嫌いですよ」
彼の目は常に前に向けられている。後ろにいる自分なんか見ている余裕はきっと無いのだ。
振り向かれる事なんて期待出来ない。ましてや、手を差し伸べてくれる事なんて。
自分の存在だけじゃ彼を振り向かせられないというのなら。
手段は選ばない。
「……だからもしも尊敬している貴方が僕とこんな事してるって知ったら、手塚、どんな顔するんでしょうね」
「………………っ」
サングラスの奥の大和の表情が僅かに強張った。
ようやく彼をうろたえさせることが出来た事に、かすかに満足感を抱く。
「彼の傷付いた顔を、貴方は見てみたいと思わないんですか?」
そのためになら、自分の身体なんか、惜しくないのだ。
長々と空いてしまいましたが大和不二シリアス風味第二回、です。
……いや、大和アニプリ再登場ってことで、自分の捏造が何処まで許されるのか冷や冷やしてたので……ちょっと……
もう貫く事を決めました(決めるなんなもん)。うちの大和は変態でヘタレです(言い切るし)。
……これ、表にUPするのまずかったかも……年齢制限が曖昧です。
続きはちょっと表に上げづらいので隠しの大和不二部屋です。申し訳ない。探してください……裏とは別物です……。
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