「TRIANGLE」 *先によろしければHoney的大和不二塚設定をご確認ください。 青春学園敷地内にある桜の木には伝説があった。 手紙によってその木の下に呼び出された大和は、目的地に相手の顔を見つけてわずかに安堵した。ここにくるまで誰かのイタズラではないかと疑っていたのだ。 「どうしたんですか、手塚君」 手塚は大和の顔を見ると、ふっと下を向いた。 「何か、お話があったんじゃないんですか?」 そばに近づくと、優しく声をかける。わざわざ人気の無いここに呼び出してのことだよっぽどの話なのだろう。良く見れば手塚は額に汗をかいている。耳も赤い。よっぽど緊張しているのだろうと思った大和は、優しい声を出した。 「落ち着いて、話してくださいね」 ぽんと肩に手を置かれて、手塚は少し落ち着きを取り戻したようだった。 「部長……俺……いや、僕は、ずっと、部長のことが……」 真剣な眼差しで自分を見上げている後輩に、大和はたじろいだ。 これは。 放課後に呼び出した手紙、伝説の木の下、そして可愛がってきた後輩。 しかし相手が手塚となると、甘い予感に胸を高鳴らせている場合ではない。 「ちょ、ちょっと待ってください、そんな……心の準備が……じゃなくて、ちょっと……」 顔を真っ赤にして愛の言葉を告げる手塚を、大和は呆然としながら見つめていた。 だと言うのに。 「……部長がいなくなる前に、これだけ、伝えておきたかったんです……」 言うべきことを言い切って、力が抜けたのか、放心したような口調で手塚は呟いた。 「そう、ですか……」 大和はそれしか言えなかった。 「君の気持ちは解りました、手塚君。ですが……」 逆接のことばに、手塚はびくりと身を硬くした。 その時だった。近くの木の陰から、がさりと音がした。 「……手塚、やっぱりそうだったんだ」 慌てて二人はそちらを向いた。木の陰から二人の様子をうかがっていたのは、一年生の不二だった。 「不二……聞いていた……のか……?」 大和はますます慌てた。「手塚に手を出さない」ことを約束したのは彼・不二とだった。なぜなら不二は手塚に秘めた思いを抱いているからだ。手塚が大和の魔の手に落ちないように、不二は大和と約束を交わした。代償は不二自身の身体であった。 というわけで。 「あのですね……これは、その……」 不二に対して言い訳をしようとするが、上手く言葉にならない。そうこうしているうちに、不二は足音も高く二人の下にやってきた。叩かれるか殴られるか蹴られるかどつかれるか投げられるか……とにかく不二からの何らかの攻撃を予想した大和は、思わず身構えた。 しかし。 「……?」 予想していた衝撃がなかなか来なかったので、大和はそっと目を開いた。 「部長……いまさら、僕のこと、捨てるんですか?」 普段の大人びた笑顔とも、開眼した時の冷たい瞳とも異なるその切なげな表情に、大和はますます混乱した。 「え?……な、何を言ってるんですか不二君ー!?」 不二の言っている意味が良く解らない。いや、正確に言うと、意味はちゃんと解るのだがそれを理性が受け付けないのだ。 「僕の身体、部長無しじゃ駄目にしておいて……」 抱きついて離れようとしない不二に身を硬くしながら、大和は思わず赤面した。 これってつまり。 「あー……、あの……」 突然現れた不二と思いがけない展開に硬直したままの大和を、手塚は何事かと呆けて見ていたが、ようやく今何があったのか理解したようだった。 「不二……お前も、そうだったのか」 その言葉に不二は手塚の方を向くと、自信ありげにふっと笑った。 「悪いね、手塚……。そう言うことなんだよ」 手塚に呼ばれて、ようやく大和は我に返った。 「えっあっはい……って、選ぶんですか!?」 可愛い後輩二人にじっと見つめられて、大和はたじろいだ。 かたや、子犬のように懐いていて自分を敬愛してくれている後輩。 大和は思わず頭を抱えて蹲った。 :*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*: 「う〜ん、……僕を巡って争うなんて……いっそのこと、二人とも……」 テニス部部室にて、机に突っ伏して居眠りしてる大和を、二人が冷たい視線で見下ろしていた。 「まだ誰か残ってると思ったら、こいつは……」 テニス部副部長・隠岐はすっかり熟睡している様子の部長を見て、吐息交じりに呟いた。それを受けて、一年部員の不二は何も言わず冷たく目を細めた。 「おい、大和、起きろよ……」 一応肩を揺らして声をかける。だが大和は寝ぼけた声を出すだけで目覚めなかった。つーかどーしてそこで後輩の名前が出てくるんだお前。 「むにゃ……あ、そんなーえー僕が下なんですか……」 とりあえず、どんな夢を見てるのかは考えない事にした。 「あーもう駄目だなこりゃ……こいつほっといていいから、帰っていいぞ不二……」 起こすのを諦めて後輩の方を向いた隠岐は、ぎょっと目を剥いた。 「……このまま永遠の眠りにつかせてあげましょうよ。今死んだら幸せそうですし」 絶対零度の口調で言う後輩に、隠岐は一瞬言葉に詰まった。 「いや、そーだな……俺も、そう思った」 二人分の殺気は何処吹く風で、幸せなのか不幸せなのかよくわからないような顔をして大和は惰眠を貪り続けていた。 大和の運命やいかに!? ……また夢オチかよ、と自分で突っ込みつつ。 とりあえず夢オチです。不二塚の人にはオススメできないと思いつつ……私も書いてて辛かった…… |