円道祥之



『ガンダム『一年戦争』』
 (宝島社文庫
 2002年8月刊
 原著刊行2000年)
 しばらくこの本を読み進めていると、気がつくことがある。
 「これ、ガンダムの本じゃないんじゃないの?」

 ガンダムの一年戦争を、古代ローマから戦国、第一次・第二次大戦とひとつながりになった「戦争」として眺めなおしてみようという趣旨の本書なのだが、羊頭を掲げて狗肉を売るとはこのことなのか、描かれている内容の比重は、肝心の一年戦争を「2」とすれば、実際の戦争が「8」である。
 戦争にまつわるさまざまなトピックから一年戦争を考え直してみる、この狙いはいい。
 著者は「空想科学裁判」などの主著者だが、この本では笑いを入れていない。それもいい。
 しかし、例えばジオンが地球連邦に宣戦布告したその戦争目的を取り上げるにあたり、アメリカ独立戦争を語り、日露戦争を語り、ヒトラー、スターリンの謳い上げた戦争目的が欺瞞だったことを語り、ジオンはと言うとその合間にちょこちょこと「つなぎ」として名前が出てくるだけ、というのでは、読んでいて「ちょっと待てーい!」と叫びたくなる。
 要するにこれは、ガンダムの名前を客寄せに使って過去の戦争について語りました、ということではないのか。失礼を顧みずに言ってみれば、「名探偵コナン 縄文体験やってみよう」(子供百科事典にくっついてきたおまけビデオ)といった類の学習アニメ・マンガと同列なんじゃないか。
 それは、読者をマニア層にある程度まで絞っているし、内容についての突っ込み方も深いにせよ、「ドラえもんの英語教室」「ゲームセンターあらしのこんにちはマイコン」と、所詮は同じ系列につながるものでしかない。

 (前略)それでも『ガンダム』は、私にとって戦争映画だったのだ。
 (中略)したがってこの本は、アレクサンドロス大王の東征があり、三十年戦争があり、日露戦争があり、さらに第一次、第二次の世界大戦があるその先に、一年戦争があるものとして書き進めた。(「あとがき」p.241)


 後書きで筆者はこのように語る。その考え方は本書を一読すればある程度まで推察できるものだし、間違っているとも思わない。その焦点があくまで一年戦争の上にあるのであれば、の話だが。
 戦争についてのガイドブックとしての本書の出来は問わない。しかしすくなくとも、本書を『ガンダム「一年戦争」』というタイトルで売ろうとするのは、それは詐欺ってもんだよ。
(2002.12.30)


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円道祥之

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