| 澤井繁男 |
| 『魔術と錬金術』 （ちくま学芸文庫 2000年12月刊 原著刊行1989・1992年） |
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●双子かと思いました表紙をめくってあらびっくり、磯野波平などでおなじみの声優、永井一郎氏がなんでこんなところに！？ と思わず二度見して気づいた、これは永井一郎氏ではなくて著者の澤井繁男氏の顔写真である。メガネにちょび髭、顔の造作もよく似ていると思うのだが、永井一郎氏のご尊顔については以前にも書いたことがある、ものすごい胡散臭さであるわけで、まさか氏とキャラがかぶる人がいるとは思わなかった。いやあ、世の中広い、と妙なところで感心三嘆。 まあそれはともかく、その胡散臭い風貌の澤井繁男氏、著作のタイトルが『魔術と錬金術』とこれまた直球で胡散臭いのだが、中身的にはしごく真面目に、ルネサンス期のオカルティズムを「近代的・自然科学的世界観の範疇に当てはまらない自然哲学のひとつの型」としてとらえなおそうという試みである。「魔術は本当にあるんだよ！」みたいな「ムー」的なあやしげ本ではないのだった。 ひとくちに言ってしまえば、自然科学的な世界観がニュートンやガリレオといった人々によって確立され世に広まっていく一方で、世の人々、さらには当時のインテリ層の中にも、自然科学的世界観に飽きたらず、魔術的な知のあり方を求める者が多かったということである。それは何を意味するのか、またそのようにして求められた魔術的な知のあり方とはどのようなものであるのかをとらまえたい、というのが本書の眼目だと考えてかまわない。 ●ルネサンス期の定義についてルネサンス期とは、一言でいうなら、スコラ神学的な知がおよそ唯一の世界観であった中世的な社会が崩壊し、代わって周縁的な知、それはすなわち自然科学でありまた一方で魔術・錬金術であるような知のあり方が芽吹いていく時代である、と澤井氏は言う。 そうして芽吹いていった魔術的な知は、フィチーノだテレジオだカンパネッラだといった、名前だけは知っている系の人々によって発展していく。この流れが、メディチ家の財力をバックにしたものであり、プラトン哲学を換骨奪胎したネオプラトニズムと呼ばれる思潮と一体である、というくらいのことはふまえておいた方がいいのかもしれない。まあ、僕は世界史は全然しらんので、こうして偉そうに書いててもちっとも理解できてないんでありますが。 ただ、以前に種村季弘氏と荒俣宏氏の対談でも読んだことがあるけれど、百科辞典的博物学的な知とか神秘主義みたいなものというのが発展していく上で、けっこうメディチ家の果たした役割というのは重かったのだな、とそんなことを再認識している次第ではある。 ●徒労感とも呼ぶべき何かで、話は魔術的な知の体系みたいなことにも及んでいくんだけれどもだ。 以前にイェイツの『幻想録』を読んだときにも感じていたことなんだけど、こうした魔術錬金術系・神秘主義・オカルティズム・グノーシス主義的な体系というのの解説って、なんか読んでいてつらい。 というのは、こういう体系って、けっこうきちんと細々としたところまでできているから、ちゃんと理解するには骨が折れる。まあ、前述したカンパネッラとかって、当時の一流の知識人なわけだから、当然といえば当然なんだろうけど。 でも、そうした体系というのは、つまるところ真か偽かという意味で言えば間違ってるわけで、なんかそれを必死で理解しようとするということに虚しさを感じるところはある。もちろんだからこそ、こうした知のあり方について学ぶというのは、それが知識として正しいかどうかとは関わりなく、当時の人々がそのようにして世界を理解しようとした、その心性を理解しようとつとめることに他ならないし、そこは僕も面白いと思っているわけだけど。でも、やっぱりそれにしちゃ骨が折れるなあという気はするわけですよ。もうちょっとお手軽な方がありがたい。 ●使い方としてなんか変に難しいというところを強調しすぎたかもしれないのでちょっとフォロー的なことも書いておきます。 この本、実は資料的な使い方もできるかなと思って買ったもの。魔術とか錬金術の体系というのは、きちんととらえようとすると難しくなってしまうので、解説書みたいな本を読んでもなかなか通り一遍のことしか書いていないことが多い。 文中にもちらっと名前出しましたが、グノーシス主義なんかは『ダ・ヴィンチ・コード』のおかげで少し人口に膾炙した部分もあるし、そういったことをちょっと本格的に知りたい、となった場合には、なかなか使いでのある本であります。索引的なものがあればなおよかったとは思うけど、まあ高望みというかないものねだりというか。 本自体の出来がものすごくいいということよりも、類書が他にないという意味合いでおすすめはできると思います。 (2006.7.30) |
澤井繁男 |