山田五郎



『20世紀少年白書』
 (世界文化社
 2004年11月刊)

●「万博少年」の世代


 同世代対談集だ。表紙にもそう明記されている。
 テレビなんかでもおなじみの山田五郎氏がホストをつとめ、同世代の人々をゲストに招いて自分たちの世代についてトークを繰り広げる。秀逸なのがその同世代をどう括るかという点で、ほうっておくとぼやけそうな世代像を、トップバッターのみうらじゅん氏が見事に定義している。
 みうら氏の初エッセイ集『万博少年の逆襲』の名の通り、少年時代に大阪万博を実際に体験し、全共闘世代のお祭りをすぐ上に見ながら成人、80年代というバブリーな時代に青年期を送って、主に90年代からガツンと表舞台に出てきた世代。具体的に言うと、山田氏をはじめ、登場するのはすべて1958年かもしくは59年生まれとなっている。
 「万博少年」というコピーはキャッチーだが、もうちょっと耳に馴染んだ言葉を持ってくれば「オタク第1世代」でもあるわけで、実際、ゲストには岡田斗志夫氏や唐沢俊一氏も名を連ねている。て言うか、この2人が同い年(ともに58年生まれ)というのは知らなかった。唐沢センセが老けてんのか岡田センセが若いのか…、他のゲストの写真と比べる限りで言うと前者かな。ちなみに大塚英志氏なんかも同年生まれで、「おたく」という言葉の生みの親とされる中森明夫氏は60年生まれとちょっと若い。ついでにあげておくと庵野監督も60年生まれだ。
 あの人も、この人も、とあげていけばきりがないので、生年からの逆引きはこのへんにして、ゲストを登場順敬称略で並べてみよう。「えー、あの人とこの人が同い年生まれ!?」という驚きは多分誰にでもあると思う。
 トップバッターはさっきも言ったように、みうらじゅん。それから大岡玲、小西康陽、しりあがり寿、岡田斗志夫、サエキけんぞう、大月隆寛、唐沢俊一、えのきどいちろう、やくみつる、田口トモロヲ、喜国雅彦、鴻上尚史と、全部で13名。

●配列と構成?


 あと、この本は有線でのトーク番組を原稿におこしたものだということなんだけど、どうもこのゲストの並びについて、放送順とかでなくて何か狙いをもった配列に構成されなおしているだろうなという雰囲気があるので、そこを指摘しておきます。
 トップがみうらじゅん氏というのが、あまりにも収まりがよすぎるんだよなあ。
 おそらく、みうら氏で全体的な世代の総括というか、この世代の輪郭線をガツッと描いておいて、ちょっとハイカルチャー寄りの大岡氏、音楽で小西氏、マンガでしりあがり氏、オタクで岡田氏と、ジャンルごとに少年期から現在までどういったものに影響を受けてきたかの総括ができる人、あるいはそこらへんがまんべんなく話題になった回のトークをならべて、ここまでが第1部。それからもっと個人的なというか個別の話が面白い人を後半に並べてるんじゃないかなと。
 やくみつる氏とか、完全に老後モードに入ってるもんなあ。

●大阪万博という「お祭り」


 世代的なトピックを年代順にちょっとまとめると、まず少年期に万博。
 万博がどうしてこの世代以前の人たちにとって「特別なもの」でありつづけているのかについては、みうら氏の回での山田氏の次の発言が的確にその理由を指摘している。
「たしかに万博は団体行動の最たるもんでしたよね。オリンピックもだけど、国を挙げて何かするという全体主義。その点でも大阪万博は戦後日本の『最後の祭り』だったと言えるかも」
 これは単純に、みんなでお祭りやって楽しかったね、という話じゃない。現にみうら氏なんかは万博の「さーみんなでやるぞ」みたいな盛り上がりに体育会系のうさんくささを感じたと言っているわけだけど、その一方で岡田氏なんかは万博の、終電間際になってみんなが帰った後、カクテルライトでパビリオンが照らされている風景に未来を感じたみたいなことも言っている。

 じゃあ何だったのかと言うと、うまく言えないんだけど、そういう色々な感情を仮託できるもの、要するに「お祭り」だったんだろうと。全共闘世代にとっての大学紛争とかがそうであったと同じような意味での「お祭り」。実体として、イベントとしての万博ももちろんそこに存在してるんだけれども、そこになんか、みんなが勝手に自分なりの思い入れを上乗せしてるんじゃないかと。一種の共同幻想ですわな。
 これが、僕たちの世代だと何になるかというと、実は多分「キン肉マン」とか「北斗の拳」になる。あるいは「ドラクエ」とか。ちょっと人による部分があるとは思うけど「エヴァンゲリオン」とか。いやこれはマジでそうなってるんだろうと思う。
 それを祭りが卑小化しているというふうにとらえる人もいるだろうけれど、でももう僕たちの世代から後になると、現実のイベントとか事件の上で祭りをするということ自体に嘘くささが感じられてしまうはずだ。それとも、ワールドカップで盛り上がってた人たちはそういう風には感じてなくて、これは僕みたいなひねた人間だけがそう思っているのかもしれないけれども、でももう大阪万博のようなお祭りとしての万博というのは、なかなかできないだろうというのは言える。
 本書でも皮肉られているけれど、大阪万博当時、通産省で担当をしていた堺屋太一氏が、ジジイになってなおインパクやったり、愛・地球博にも絡んでたりするというのは、そこらへんが見えずに過去に成功したお祭りの影を追いかけているなあという気がしますね。

●高度成長期から『なんクリ』へ


 で、これは万博と並行してるんだろうけれども、世の中が高度成長期でどんどん景気がよくなっていく。
 これの恩恵をもろに享受してるのが、小学校低学年まで赤貧だったのに、高校生のころには自分の部屋が90畳ある超のつくボンボンになってたという岡田氏。でも、他にも、割に趣味とか就職とかの面で、「好きにすればいいよ」と親とか周囲から寛容に対処してもらえたという人が多くて、これは高度成長期ならではなんだろうと感じられた。
 大学時代にザルツブルグに1年間留学した山田氏もその例には漏れないけれど、その前の世代とか、あるいはもっと時代が下っていま30歳よりも手前の世代だと、そういうのはゼイタクになってしまうんだな。要するに、「これからもどんどん右上がりに収入が増えるぞ」と無邪気に信じられていた頃だからこそ、子どもが趣味に生きようとしてもそれを温かく見守っていられたわけで。
 で、そういった風潮にとどめを刺す転換点が『なんとなく、クリスタル』。山田氏が大月氏との対談の中で言っている言葉をまた借りるなら「それまではビンボーが偉かったのに、いきなり『なんとなく、クリスタル』やもん」という、価値観がガラッと180度かわるメルクマールがここにあったと。
 そういう転換については、「ついていけないところがあった」と告白している人が少なくないけれども、でもそういう価値観の大転換を許す好況の恩恵自体はちゃんと受けてるんだよな、この人たちは。それは良かったとか悪かったということじゃなくて、単なる所与の条件のひとつではあるんだけれども。

●サンプリングカルチャーの淵源


 そうやって育ってきた世代が、世の中に出るにあたって、サンプリング&リミックス的なカルチャーを生み出してきたというのは、面白いというか、示唆するところが多いと思う。
 全共闘の「祭りのあと」の世代だとみずからを位置づける押井守氏は、もうちょっと世代が上(51年生まれ)に当たるわけで、本書のゲストの人たちというのは、あそこまでまともに上の世代の波をかぶっているわけではないようなんだけれども、「上の世代がおいしいところを全部やっちゃってたから何していいか迷った」みたいな述懐はやっぱり多かった。
 もっとも、このへんは山田氏がそう誘導しているところもなきにしもあらずで、そういう思いが強かったのは、むしろ山田氏なのかもしれない。
 にしてもまあ、庵野監督の「もう完全に新しいことはないから上の世代のサンプリングやコラージュで構わない」(意訳)発言なんてのは、そういうところからしか出てはこないわな。まだ次々にこれまで見たこともなかったようなものが出てきてるときには、そんなことは誰も言わない(言えばバカにされるから)わけで、逆に言えば、そういうところで悩んでしまった最後の世代でもあるのかもしれない。オタク第1世代には、功罪ともにたくさんあると思うけど、大きな功績のひとつは、サンプリングでも構わないんだ、それで新しい作品はできるし、人を感動させることもできるんだ、というのを身をもって実証したところだと思う。
 それから後の世代というのは、基本的にそこでは悩んでないもの。

 上の世代がやり尽くしたから、というのはあるにせよ、しかし、実はそれだけではないよねきっと。サンプリングが面白くなるには、サンプリングする元ネタをたくさん享受していなければならない。その元ネタがこの世代あたりから多様になってくる気がする。
 多分、この年代から上の世代というのは、もうちょっと享受している文化が画一的なんじゃないかと思う。押井守氏もそうだけど、もうちょっと世間一般に顔が売れているビッグネームでは、糸井重里氏とか赤瀬川原平氏、南伸坊氏とか、村上春樹氏、村上龍氏とか。
 左翼運動をどの年代で体験しているか、というふうに言い換えることも出来るだろうけど、単に左翼運動に限らなくて、ここらへんの世代というのは、まだ子どもの頃、みんなが同じ娯楽を享受して育った世代にあたる。「鉄腕アトム」のモノクロアニメが63年で、それよりももっと手前だから、「白馬童子」とかそういうのね。
 身もフタもなく言ってしまえばまだ日本が貧しかったんだとも言えるけれども、この「アトム」のアニメの前後で、子ども向けの娯楽プログラムというのは一気に充実して、子どもの側に選択の権利が発生している。
 きっとその差っていうのはでかいんだろうなと、そんな風にも思います。
(2005.5.5)



山田五郎

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