<雨>
雨が降っている昼休み。
強くはないが、雨が地面を叩き心地よい音を立てている。
雨の日の教室の音はまた独特なもので、曇った空によって閉じ込められたようなこもった感じの響きがする。
その音も心地よい。
グスタフは右手で顔を支えながらぼんやりと窓の外を見ている。
目はどことなく遠い感じがしている。
その目が窓ガラスに映って、彼自身を見つめているかのようだった。
彼には別に思い出そうという気持ちがあったわけではなかったが、自然と脳裏に一人の少女の姿が浮かぶ。
もう3年もたつというのに、彼女の姿はまだ鮮明に浮かぶ。
雨が降ると思い出す。
「思い出すつもりはなかったのにな・・・」
少女の姿を思い浮かべている自分に気がつき、自嘲気味に思う。
ふっきれいていない。
そんな自分が情けなくもなる。
「まだ時間がかかるのか?いや、時間は何も解決してくれないのか?」
こう考えてしまえば、袋小路になってしまう。
解決策など見つからない。
トラウマはなかなか消えるものではなく、彼の精神を時々暗い淵へと連れて行く。
「こんな状態だから、人を好きになれないのだろうな・・・。」
そう思うと、ふとさっきとは違った少女の姿が思い浮かんだ。
小さな日本人の女の子。
まだ幼さを残した純粋な目を持った女の子。
私の前に出るととたんに言葉が出なくなる女の子。
まだよく話をした事もない女の子。
彼女の姿が思い浮かんだ事を自分でも意外に思ったが、すぐに打ち消した。
暗い影を払うかのように元気よく彼は立ち上がった。
クラスの人間は、思い思いの事をしている。
音楽室にでも行って少しピアノでも弾けば気が紛れるだろうと思い、教室を出ようとした。
「あ、あの!」
入り口から出たところで声をかけられた。
「はい?」
返事をしてからみると、ぎゅっと目をつぶり、下を向いた少女が立っている。
あの女の子だ。
「あ、あのこれ!」
そう差し出した手には袋があった。
手が震えているのか、袋も小刻みに震えている。
「え?」
思いもよらない少女の行動に彼は戸惑った。
「こ、この前の、ク、クラリネットのお礼ですっ!」
今度は彼の目をみて少女が言った。
興奮しているのか、緊張しているのか、目が少し潤んでいた。
「これを、私に?」
そういうと、彼女はぶんぶんと縦に首を振った。
「ありがとう」
「そ、それじゃぁ、失礼しますっ!」
女の子はそれだけ言うと、きびすを返して廊下をかけていった。
その姿を呆然と見ていたが、袋を持って教室の自分の席に戻った。
袋をあけて見ると、クッキーと一緒にメッセージカードが入っている。
「この間のお礼です。
先輩が甘いものが苦手かどうかわからなかったので、少しお砂糖控えめのアイスボックスクッキーにしてみました。
手作りでおいしいか自信がないけど、食べてください。
古河結花」
そう可愛い文字で書いてある。
たいしたことをしたわけではなかったのになぁとそのカードの文章を何度も読みながら思う。
あの時は、ただきになっただけだ。
だが、自然と心が和んでいた。
彼自身は気がつかなかったが。
外では雨が止み、日が射し始めていた。
ある日の昼休み。